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天球ギャラリー

小説、イラストの保存庫です。
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passional stair

その美しい顔に、飾られる表情は嘘だと分かっていて。
本当の心を見抜くのは無理だとわかっていても、見抜きたくて。
ただ、心の底から、きみに微笑ってほしいという想いだけがある。
年の最後に、自分のために。

あの子がそう想っているのを知っていて。
毎回毎回わざと遅れてみせる自分っておせっかいだなと思った。
ただ、それでもあいつを陥れてみたいという好奇心、遊び心は尽きなかったのだ。
自分はなんてお世話焼きなんだろう。

信じてはならないと知っていても、受け入れなくては可哀想だと思っても。
どうしても駄目だった、心の底を表現するのは難しかった過去。
縛られて、親の言う事を聞いて、逆らわずに、素直に生きることが出来なかった自分が。
ありがとう、とも、よろしくとも、本気で言えるのは―――


『Passional Stair』 パッショナル・ステア


ネオンの光る街角の大きな塾の中。
肌が白く顔の整った脚の長い高校生が、コートを羽織りながら鞄の中の携帯に目をやった。

ひとつ、メールの届いた音がなったのだ。
このまえの休み時間にメールを送った時、いつ届いても分かるようにと着信音を有りにしておいたのを今ごろになって思い出した。
携帯のメールアドレスを知っているものは少ない。パソコンのアドレスは有名だから、常にラブレターやファンメールが届いてしまう。
用心して、携帯のアドレスを教えたものはリストにする必要があるくらいだ。

彼は高い身を折って床の鞄に細い腕を伸ばす。
コートを羽織り掛けで携帯を取り出すその姿はいつもと変わらぬ姿の筈なのに、どこか優美でかっこよく、下に目をやっていて気付かない間に彼を凝視するもの が増えていった。
だが、慣れている彼にとって、そんなことは気にすべき事ではない。

届いたメールは、今一番信頼できる者からだった。
あの「第二次冥王の口付け」とも呼ばれた大規模なネットワーク・クライシスを解決に導いた仲間達のリーダー、PC名はカイト。
本名は知っているが―――あえて別に考える事にしている。
今から随分前に手を組んで、数々の痛々しい事件を乗り越え、根本となる最終体をおさえるに至った。
その最後の刻に立ち会った個性豊かな大勢の仲間と、最後まで一緒に戦ったカイト、その相棒で勝気な女・ブラックローズ――意識不明者のひとり速水文和の 姉・速見晶良――達とは、今でも連絡を取り合い、エリア探索を頻繁に行っている。
以前のような異常は見られないが、正常に形成される世界を観るのも悪くない。前ほどのスリルは感じられないけれど。

メールの内容は、正月限定に作られた一日限りのエリアを回らないか、という勧誘。
たしか、クリスマスのやつも一緒に回ったような気がする。
アレは本当に真っ白な猛吹雪――今はもうないザワン・シンというイベント以来の幻の天候――のエリアだった。
いたるところに立体感溢れるクリスマス・ツリーが飾られていた・・・いや、にょきにょきと生えていてと表したほうが正しいか。
システム管理者がサンタの格好をして歩いていたのを目撃した時は、それがゲームだということも忘れて、げほげほと咳込んでしまったものだ。
話は戻るが、正月限定のエリアなんて都合の良いものを作ったものだ。
そう、思った。

それが探索エリアらしいエリアじゃなかったから、余計に驚いた。

ネタバレは数日前からされていた。
誰が漏らしたかも知らないけれども、結構有名な噂になっていたものだから、古株のプレイヤーである自分には手に入りやすい情報だったのだけれども、古い、 平安風の屋敷がエリアになっているらしい。

モンスターも古代和風だとか。
そのような、建物があってモンスターもいるエリアなんて、今まで数年間続けてきて、存在しないことがわかっていた。
それをあえて作るとは、サイバーコネクト社も考えたものだ。

これで人々の妄想――想像の世界にとどまらない、プレイヤーの望みが一つ叶えられたのかな?
彼がメールを見ながら思考にふけっていたとき彼を凝視していた人々は、そのメールが彼の恋人から来たのではないかと試行錯誤していた。
それは違ったが、それとは別の意味では合っていることになるのかもしれない。

彼はコートを翻し、授業の終わった教室を飛び出した。
暖かな年末、しかも31日、約束の時間に間に合わせる為、ひたすら走り、跳び、走り、跳び、自宅へ急いだ。






バタン。

家に着いた時、約束の時間まで数分だった。慌ててログインしてカイトに会いに向かう。
待ち合わせ場所は、限定エリアの告知がされる、Δサーバーのルートタウン、マク・アヌ。
彼は何の表情もつけずに(単に、表情のショートカットを押すのを忘れていただけである)カイトの元に急ぐ。

カイトは苦笑しながら言った。
「バルムンク・・・、まだ学生服のまんまでしょ」
「・・・なんで分かったんだ?」
カイトは呆れたような声で言った。
「だって、バルがこんなに大急ぎで走ってくるなんて滅多に無いもん」

そういえば、いつも余裕のある時間にゆうゆうと歩いてくるのがスタイルだった事を思い出した。
今日は年末なのになんで塾があるんだか、という怒りで一杯だったし、時間に間に合わないと生きてゆけないような気がして、大急ぎで走ってきたのだ。

「まだブラックローズは来てないよ、よかったね」

よかったね、といわれれば嬉しいような気もするが、大して嬉しくない。
遅刻魔のあの娘と比べられたら自分も終わりというものである。ため息をひとつついて、カイトに向き直る。

「ブラックローズに抜かされるようでは俺も落ちたものだ・・・」
「あはは・・・バルはきっちりしてるもんね。寝坊とかしないでしょ」
「したら生きてけないぞ、高校までは1時間強程度かかるんだから」
「こっちはその分、楽だなー」
カイトは笑いながらつぶやいた。
「走ればすぐついちゃうしね」
カイトの綺麗な翠の髪がいつまでも暮れぬマク・アヌの夕日に照らされてきらりと輝いた。
身につけた双剣が鋭い光を返し、カイトの幼げな顔を映す。

「神経質になって生きるのは大変なことだな、と最近気付いた。
昔は時刻表を見て歩いていたくらいなのに、今は目の前で電車が行っても気にしなくなった」

ようするに面倒になったのかもしれない、とつぶやいてみると、カイトは楽しそうに微笑った。
「バルは微笑んだほうがかっこいいよ。せめてショートカットだけでいいから笑おう?」
「笑ったら、笑顔の価値が下がるかな?」
「下がらない下がらない。人気はもっと上昇するに違いないって」
「もうファンはいらない・・・」

「こないだ現実世界の写真送ってもらったけど、リアルでもバルは二枚目だね。背が高くって細身で、頭脳明晰、顔立ちは整ってて睫は長くって。黒髪でもかっ こよさがにじみ出てるよね。毎日何通のラブレター受け取ってるの?」
「痛いところを聞いてくるなよ、カイト・・・」
明らかにカイトは楽しんでいる。面白がっている。
「だって、ぼくはそんな経験ないし」

と、そんな事を言っているが、カイトの親友で自分の相棒――カイトといる時間の方が多いせいで既に元相棒のような気がしてならないが――オルカが話した 実状によれば、登校する前帰宅する前、体育に出る前に、カイトの熱烈なファンクラブの会員達が手紙回収作業を欠かさないとか。
男女双方に愛されてしまうらしいカイトは、過保護なファンクラブのおかげで自分の人気を知らないのである。
確かに、The Worldというネット上の姿も写真で見たリアルでの本当の姿のどちらも可愛らしく、ファンのひとりやふたりは居そうだなと思ってはいたのだが、カイト自 身こそ知らないが、学校中の五人に一人は知っているくらい大きな組織なのだそうだ。

「カイトは年末を過ごすのはどうするんだ?」
「えっ」
話し込んでしまって気付かなかったが、あと数分で訪れる、カウントダウン。
そのおめでたい瞬間を、どうするのだろうか。テレビを見て?いや、親と笑いながら?

「このまんま・・・・・・・・・のつもり」
表情には変化がなかったものの、少し語調が不自然だったのが気になった。
「家出でもしたのか?それとも閉じこもってたりするのか?」

「なんでもなく普通なんだけど、年越しをバルムンクと過ごしてみたいなぁと思った」

クリスマス――あのときもブラックローズは遅刻した――も同じ事言ってたじゃないか、と言ってみると、カイトはけらけらと笑う。
「だって、人の良いお兄さんと笑って過ごせる年末年始っていいじゃないか」
「俺が、人の良い?」
「良いよ。すごく」
素直に納得できずに考え込んでしまった。
不器用だとか、無表情だとか、もっと笑えだの、もっと愛想良くしろだの言われた事はあっても、人がいいなんて言われたことなかった。
「・・・悪いが、カイトのセンスを疑うぞ」
「酷いなぁ、誉めてるのに」
カイトは、あっ、と声をあげた。

「バル、カウントダウンだ!」



マク・アヌにいるユーザーはとても多かった。
そのため、イベントのひとつとして、サイバーコネクト社のマスコット・キャラクターによるカウントダウンが行われるのが定例になっている。
いままで居た橋の上から、駆けてゆくカイトの後を追って広場にいく。
広場では、大勢の人がトークを、大勢に聞こえるチャット・モードに替えて、カウントダウンをしていた。
物好きもいたもので、今年のカウントは100かららしい。
着いた時、22、21・・・という声が大きく響いていた。

「ほら、カウントしよう!」
カイトに腕をひっぱられ、一緒になって叫ぶことにする。


5、4、3、2、1―――――




新しい年が来た!




あまり意識はなかったが、カイトが無性に嬉しそうなので、一緒になって喜んでみる。
カイトはその表情こそ普通の笑みだったが、心の底から喜んでいるように思えた。
「ありがとう、バルムンク!」
蒼い双瞳がこちらをみつめて、にっこりと。黒い手袋をした自分の手を、しっかりと両手で握って。

「去年は大変お世話になってなって、沢山迷惑かけたけど、今年もかけていい?」
――――――・・・・・・だから、これからもよろしくね!
そこにある気持ちを少しでも理解できたような気がしてきたら、無意識のうちに口が開いてしまっていた。

「勿論、どんどんかけてこいっ!遠慮はいらないからな!」

カイトにつられて、今度はましに微笑えたかもしれない―――――。
ただ、知らず知らずのうちに演じていたキャラから外れて、リアルのまんまの声と言葉で返してしまったことにも気付かずに。



美しい彩りのマク・アヌで、少し視点を切り替えると、ゲート付近にいるブラックローズの姿が見えた。
ずっとそこにいたかのような彼女はこちらを見て腕組みをし、微笑んでいるように見えた。
カイトは気付いていない。
どうやら自分を探して視線をよこしていたらしい彼女と目が合って、ましに微笑ってみせると、彼女は安心したのか、メールを送ってきた。

――――――良いお正月を迎えられたかな?

どこも気取った感じのないその文面に微笑んで、目をマク・アヌに戻すと、カイトは手を握ったまま、首を橋のほうに反らした。
先取りしてしまって現れる人物が誰だか分かっているけれど、嘘をついておこう。
・・・お礼の意味も兼ねて。

「遅いぞ!」



―――そこに、ブラックローズが駆けてくるのが見える。



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激怒する鳥語文法の叙情詩人

「わぁい、レアだぁあ~(^^)」
ミストラルの嬉しそうな声が響き渡った。
このエリアでは、なんだか金運が良いらしく、結構レアなものが出てくる。
「ぼくのドレインゲージがやばいけどね・・・ははは・・・」

やはり、レアと同時にカイトも危ないのだが。

「次で最後だ。」
妖精のオーブを使い、モンスター完全撃破を目指してきたカイトたちは、最後の部屋に入った。
「出たぞっ!構えろ!」バルムンクは吠えた。「たぁああーッ!!」

彼は青く細身な片手剣を構えて、飛翔する。
そのまま大きく振りかぶって、魔法陣が開いたと同時にモンスターに斬りかかった!
「ウィルスバグだよ~!」ミストラルは呪紋の詠唱に入る。そして、大きく杖をかかげる。「ファライクルズ!!」
大きな攻撃のエフェクトが現れる中、カイトが右腕を突き出す。
「データドレイン!」

イレギュラーな緑の数字の羅列が走り、彼ら以外誰もいない広い空間にノイズ音が響き渡った。
大きな閃光に包まれたかと思ったら、目の前には正常なモンスターの死骸と、着地したバルムンクの歩み寄る姿があった。

「どうだ?」
彼が言う、どうだ、というのは、ドレインで手に入れたアイテムのことだろう。
「金運がいいみたい(笑)」
嬉しそうに笑いながらカイトはそれをバルムンクに渡した。



遠くから、その光景を見つめている人物がいた。
「くそ、バルムンクの野郎・・・」マーローは、悔しそうに歯軋りをした。「カイトからアイテムもらいやがって!」
マーローと一緒に(カイトの後をつけて)来ていたエルクも、淡々と言った。
「PKしちゃいたいね」
残りの一人であるブラックローズは、「なんでこいつらと来たんだろう」と、少し後悔していた。

「あたしはただ、カイト達どうしてるかなぁって、思ったから来ただけなんだけど」
「ブラックローズは自分がヒロインじゃなくっていいの?」
エルクが鋭く言い放つ。
「あたしをバルムンクPKの仲間に入れようとでもしてるわけ?」
「さあな」

マーローはカイトにメールを送った。
目の前にいるカイトにメールを送るというのも、なんだかストーカーっぽくてまずい気もするが(実際ストーカーなのだが)
とりあえず、一緒にエリアへ行かないか、という内容を送ってみる。



「あれ?」
カイトはマーローから来たメールに目を通す。
その姿を、マーローは真剣に見つめていた。はい、または、うん、とでも言ってくれ!という期待を込めて・・・。

だが。

「マーローから、エリア一緒に行かないかって。」
「でも今日はミストラルが楽しみにしていたイベントの日だろう?」
「わぁあ~覚えてくれてたんだぁ(>▽<=☆」
「うん、じゃあ、マーローには、またね、って送るよ」



・・・・・・・・・・・・(^~^=☆



「カイトォオオオオー!」
マーローは悲痛そうに叫んだ。
パーティーモードであるがゆえに前の彼らには聞こえず、2人の耳に痛いほど聞こえてくる。
「男なんだから泣くのはやめなさいよっ!うるさいわねっ」
「マーローなんかを男の代表みたいに思わないで欲しいんだけど。。」
二人に散々文句を言われ、マーローは嫌そうに睨んだ。
「でも、今日イベントなんでしょ、お月見イベント。」

そう、今日こそがマク・アヌが巨大な月見会場になる日なのだ。
今日なら、バルムンクがオチた後に夜遊び風にカイトと遊ぶのもできる・・・

「こら!なに考えてんのよ!」
「声にでてたよ、マーロー。みっともない・・・」
「んなっ」





という訳で夜になった。

「あたしたち、ストーカーみたいじゃないのよ」
「現にストーキングしてるしな」
「アンタのせいでしょーがっ!」

エルクはひとり、落ち着いて目の前のパーティーを眺めていた。
マク・アヌの9月限定イベント『お月見』だ。

「今日のサポートHPに載ってた『本日の占い』によれば・・・」
保存しておいたファイルを開いて、エルクは音読した。
「バルムンクの運勢は『危険な夜遊びへのお誘い。最悪の場合犯罪者に?!』だけど・・・。どういう意味なんだろう」
「ならそれを実現してやるぜ!」と、マーロー。

ひとりでずかずか歩いていって、バルムンクにつっかかる!
「てめぇ、カイトをひとりじめしやがっ・・・・・・」

ズバシュッ!!

「すまんな」
マーローは煉瓦の床にどさりと倒れた。それを満足げに見たバルムンクは、微笑みながら青い細剣を鞘に収めた。
「今夜はお姫様のエスコートゆえに、手加減しないつもりなんでね」
「お姫様って僕のことなの・・・?」
「当然だろう、カイト☆」

いちゃつく二人をみながら、ブラックローズはイベントで盛り上がっていたミストラルがいない事に、気付く。
「あ・・・ミストラルは?」
「ここっ♪」
「だぁあぁっ!?!」
「悪いけど・・・お二人の邪魔はさせたくないんだよねぇ~。ごめんね。。」
ミストラルが立ちはだかる隙に、カイト達は路地裏の方に歩いていってしまう。
「え、ちょっと・・・っ、あれってかなり危ないシュチレーションじゃないのよっ!」
「(ぼそり)だから萌えるんじゃない」
「は!?」

にやりと不敵に微笑んだミストラルは、ブラックローズの耳もとで囁いた。

「ファリウゾットぉぉ~」
「きゃぁああーっ!!!!!」






そのころ、入り組んで誰もいない、マク・アヌの奥地で。

「約束したけど・・・優しくしてよね・・・?」
カイトはつぶやいた。
「ああ。なんならここでやってもいいんだが」
「駄目だよ!」
「わかった、わかった(笑)」

二人は手をつなぎ、仲良く歩いている・・・・・・
が、しばし無言の空間が生まれた。

「本当に、だよね・・・?」
「本当だ。優しくはするが、先にいってくれるなよ」
「・・・バルムンクって、ほかの人とそういうことしてたの?」
「してない。お前にホレたから、お前だけに、だ」

バルムンクは、そんなに心配なら・・・・・・、と、小さくつぶやいて、カイトを抱きしめる。

「体験版でもプレイしてみたいか?」
「体験って・・・・・・んっ!」

バルムンクの唇がカイトの唇を覆い、閉じられた唇を舌でつつく。
少しだけ開いたらそこに舌を入れ、反射的に逃げようとしたカイトの舌を絡め取った。
「・・・っ、いきなり何を・・・って、駄目だってば!」
手を服に伸ばしかけたバルムンクの頭に、ごつん、と頭をぶつけてやってから、カイトは怒鳴った。
「こんなところじゃ嫌だよ!」
「誰も居やしない、それに、パーティーモードにするのを忘れるなよ?」
「体験版なんだから、ここでおしまいにしてよ!」
「これは手ごわいな・・・。だが、体験版はもう少し先までだ。強制終了は許されないぞ?」

怯えたカイトの口を唇で塞ぎ、バルムンクの指が服に手早く回る。
バルムンクは片手をズボンの中に差し入れて、未熟に震えるカイトの中心を握りこんだ。

「・・・っぁ!」
声にならない悲鳴がバルムンクの耳に届く。
「大丈夫だ。こんな場所でいかせたりしないからな」
「そういうことじゃなくて・・・」
「やめた方がよさそうだ」
ふと、気付くと、バルムンクがカイトの服を直し、先に行かせようとしている。

「いくぞ。俺のホームはすぐそこだからな!」

えっ、と、戸惑っているカイトを横向きに抱いて、バルムンクは猛スピードで走っていった。

infinity

それは、ちょっとした事故だった。
ウィルス汚染によるΩサーバーの一時的閉鎖が、TheWorldに激しい揺れと振動をひき起こしたのだ。
それによって一時的にさまざまな障害が付き纏った。

「マク・アヌから出られない!」
「キャラが動かないよ!」
「ノイズが走ってる!」

そんな中、カイトはカルミナ・ガデリカに来ていたのだが、酷い揺れに、呆然と立ち尽くしていた。
「サーバー・ダウン・・・・・・?」
ぐらぐらとは揺れるが、グラフィックが壊れる訳でもない。と、その時。

ブゥン・・・

こんな非常事態にカオスゲートを使う人間が、彼の目の前に転送されてきた。
Ωサーバーに最も近く被害が強いΣサーバーにいたのか、酷く慌てている。
そして、その人物は、彼が良く知る人物だった。

「バルムンク!」

カイトが駆け寄ると、バルムンクは力なく崩れ、がっくりと膝をついた。
石畳の床に両手を当て、荒い呼吸を繰り返す彼の肩に手を置いて、カイトは話し掛けた。

「大丈夫?」

バルムンクは顔を上げた。顔面蒼白で、疲れた顔をしている。
カイトは彼の片手をしっかりと握り、優しく微笑んだ。

「ここはまだ安全だから・・・あっちに行こう。」
「・・・すまない」

ゆっくりと彼を抱き起こし、路地裏の方に連れてゆく。
ノイズがバチバチと走り、地震が激しく続く中、壊れる事のないグラフィックの中を必死で歩きつづけた。
二人は極限状況におかれていた。

「カイト」
「なに?」
「・・・・・・なにか変じゃないか?」

ぴたっ。

一人称視点にしたはずは無いのに、いつの間にか視点がかわっている。
それに・・・

「ノイズ音が耳に突くように響くんだが」
「そんなはずは・・・・・」


キーーーーーーーーン!!!!!


「うわっ!」
「何だこの音はっ・・・!」

目の前が真っ白になった。白い視界の端の方で、なにかがチカリと光ったかと思ったら、強烈なフラッシュが大きく走る!
身体が浮くような不自然な感覚を覚えながら、必死で、見えない目を閉じた。

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・






「生きてるか!?」

彼の声で意識が呼び戻された。
幸い、自分にも目の前の彼にも、グラフィックにも問題はない・・・・・・かのように思えた。

「生きてる、でも!」
カイトは手を握ったり開いたりしながら、困惑した表情を隠せずにいた。
「感覚がある・・・っ」

バルムンクは落ち着いた表情でカイトの方を向く。
「こんな状況ですまないが――」
「?」
彼は手の甲についた武具を外し、白い手でカイトの頬に触れた。
「お前に触れられて嬉しい」
「・・・っな、なにを言ってるの」

カイトが抵抗しない事をいいことに、白く細い指先で輪郭をなぞる。


(ここからは無かったので2007年8月に書き足しました)

二人はお互い、じっと見とれあって微動だにしなかった。
目の前にいるPCは3Dなのに温かい。
触れた、触れられたところからお互いの熱を感じるようで初々しく恥ずかしいのはなぜだろう。

「ずっと…こうしていられるなら、このままでも構わないのに」
カイトがそう呟いたころには徐々に視界がぼやけてきていたので、温もりを惜しむようにバルムンクが指を動かす。

「触れたいと思っていたのは俺のほうだ…」

熱っぽいその声にカイトは、自分の顔が真っ赤になったような気がした。

「ぼく…」


カイトの発した言葉は白い光に呑まれ、そのきっかり5秒後に二人は何事もなかったかのようにルートタウンのゲートに立ち尽くしていた。
周囲のPCが次々と疑問の言葉を口にして慌しく走り回る中、 あれはなんだったのだろう、とぼーっと思いをめぐらせる。
望まない混乱であったけれど、あの時間だけは無限に続いて欲しかったと二人だけは思っていたのだった。

crown

「こっちだ」
イベント告知広場で、バルムンクがカイトの手を引いている。
「今日のイベントはあれなんだが、どうする?」
「花畑なんだね」
「こんなのもたまにはよいかな、と」
「(笑)」

今日の限定イベントは春らしく、花畑。
二人組のパーティ限定のイベントで、なにかオプションがもらえるらしい。
エリアはΔサーバーで、90を越す彼らのLVでは余裕過ぎる所ではあるのだが、花畑というキーワードに釣られたようだ。
すでに告知広場には大勢のPCは集まり、オプションの話題で一杯だ。
種類は戦闘とも探索とも書かれていない。ただ、花畑と、オプションについてあるだけだ。

「行ってみたいか、カイト?」
「行きたいのはぼくよりバルムンクなんじゃないの?」
カイトはくすりと笑った。
「じゃあ、行かないか?」
「喜んで」

来た時と同じように、バルムンクがカイトの手を引き、駆け足で広場を去った。
有名PC二人を見つけた数人の物好きが、その跡を追いかけようとして、人に呑まれた。




そこは本当に花畑だった。

エリア内にダンジョンはないらしく、本来草原であるべきフィールドが一面の花畑になっている。
ご丁寧にも、bgmもお手製の可愛い音楽になっており、モンスターに似合わないファンシーなエリアと化していた。

「これは・・・リョ-スの石頭もよくやったものだ」
石頭、という言葉に苦笑いをしたカイトに、バルムンクはたずねた。
「なにか言いたそうだな」
「ううん、なんでもないよ。(笑)」

そんな二人の少し後ろに、銀の甲冑を身に着けた金髪の剣士と、その連れの女性PCが立っている。
「あの人って、ジークがいつも、負けたくないって言っている人?」
彼女に指さされ、ジークと呼ばれた男は苦笑した。
「それは言わないでくれよ・・・」
小さく、マイ、と呟いたようだったが、彼女には聞こえていなかったようだ。

その二人の前で、カイトとバルムンクはヒントを探していた。
「このエリアで何をすればいいんだろう」
カイトは、無意識に可愛く首を捻った。
その行動に目を釘付けにされながら、バルムンクはうなる。
「花畑だから・・・、当たりを探すイベントかもしれない」
といって見渡してみても、何を探せば良いのかも、見渡す限りの花のどこから探せばよいのかもわからない。
つまり、行き詰まった、ということになる。

「まさかとは思うけど、モンスター退治じゃないよね・・・?」
「ここからピッカリ草を探し出せという事なのか?」
バルムンクがしゃがみこんで、目の前の一本を引き抜こうとしたそのとき、その言葉に答えるかのように、花が変貌した!
「サウザンドツリー・・・?」
「これがボスなのかなぁ・・・」
二人は、まさかという顔でそれぞれの武器を構えた。

と、その時。

「分かったぞ、カイト!」
「何が!」
カイトは答えながら双剣で巨大植物を切り裂いた。
「このエリアはひたすら花畑なんだ!」
「・・・・・・答えになってないよ!」

モンスターを軽く倒してからふと横を見やると、宝箱が落ちている。
というか、ありがちなパターンだ。

「開けるの、かな?」
「当たりでありますように!」
何が当たりも何もまだ決まっていないというのに、彼は神頼みしながら気合を込めて宝箱を開けた。


ばん!!


『花冠』

そう、一言かかれた紙が入っていた。
紙切れ一枚以外には何もない。そう、何もない。

「はずれ?」
カイトの呆れた声に、バルムンクは慌てて答える。
「まだだ、まだ!実は紙に触れるとイベントが・・・」
バルムンクはがむしゃらに手を伸ばした。
その手のひらが紙に吸い付くように触れた瞬間・・・

ぽん!

「罠!?」
「物騒なことを言うな!・・・げほっ」

煙のエフェクトに巻かれ、本当に煙い訳でもないのに咳き込むバルムンクの手には、
実に可愛らしい花の冠が、ちょこんと乗っている。

「"花冠"・・・だね」
カイトが言うが早いか、バルムンクは手の上に乗っているその冠をカイトの頭の上にかぶせようとした。
「わっ、駄目だよ!ぼく似合わないから・・・」
「俺なぞもっと似合わん!」
バルムンクはカイトの帽子をひっぱり、脱がせると、その冠を無理矢理はめさせた。
「恥ずかしいよ、こんなの」
「よし、マク・アヌにデビュー(お披露目)だ!」
「駄目!というかやだ!」
「カイト、可愛いぞ!」
「可愛い、じゃないっ」


しばらくその場でばたばたと会話していたが、バルムンクがその手を引くと、二人は花畑をゆっくりと歩いた。

「恥ずかしいよー」
「もっと素直になれ。そうでないと俺一人が馬鹿に目立つんだ・・・」
カイトは、いきなりひらめいた瞳をバルムンクに向けた。
「"そうするよう、務める"」
「うわっ、やめてくれ!・・・その、あのころは・・・すまん!」
「ぼく悩んだんだよ」
「だから・・・・・・悪かったっ!」
「すっごい敵視されたし」

仕方がない、という顔をしたバルムンクが、大きくため息をついた。
苦笑するカイトに顔を近づけると、軽く唇を奪ってみせる。

バルムンクはエンジェル・スマイルで、これでもかというくらいの笑顔で、カイトに視線を送る。

「これで黙ってくれるか?」
「・・・っ!」



その二人を黙って見つめる、香住ことジークと水無瀬舞。
「・・・・・・花冠つけたい?」
「・・・」

clown

「なにあいつ・・・」
ブラックローズが不機嫌そうに呟いた。
「ここまで来ておいて、何しに来た訳?」

とあるエリアで、彼と遭遇した。勿論、彼というのは蒼天のバルムンクのことだ。
彼はカイト達に出会うと、無言で一瞥し、立ち去ったのであるが・・・・・・

「彼は悪い人じゃないよ」
「だからってアンタが悪い訳でもないでしょうが」と、ブラックローズ。
「バルムンクだって・・・必死で何かを探しているような、そんな目だった」
「あたしから見たらあんたもそうなんだけど」
「・・・・・・っ」

その一言で、少し、カイトの声が漏れる。
無表情のまま黙ってしまったカイトに、少し考えるようなポーズを取ったブラックローズが改めて話し掛けた。

「いいんじゃないの」
「え」カイトが返事をする。「何が?」

「あいつが敵だって、アンタの想いは通じるわよ。
軽い気持ちじゃない、本当にアイツに対して何かを思う確信があるなら、時が解決するはずじゃない?」
どうやらブラックローズなりに真剣に考えてまとめた言葉らしい。
優しく、朗らかに、明るく、おおらかに。彼女の性格をよく表した、結論。

「ありがとう」
「いーえ、なんの。」
床に差していた大剣をぐさりと引き抜き、彼女はにこやかに構えた。
「じゃ、進もうか」
「そうね」




その日、数時間後。
Λサーバー・ルートタウン カルミナ・ガデリカ

夕暮れ時の薄暗いオレンジ色の空が、黄昏る。
その光は、ちょっと影のかかったような暗がりに位置する石畳の橋に届く事は無く、高い建物のガラス窓で反射している。
橋の柵になっている石が人の肩位まで積み重なっていて、そこにが紅い双剣士が寄りかかっていた。

「・・・」

彼は無言でカオスゲートを見つめた。

薄蒼い透明な水晶部分がチカリと光る。
カオスゲートは、青白い光を放ってゲートインを促し、促されて現れた一人の剣士が、彼に気付く。
歩み寄ると、相手は下を向いて黙りこくっている。

「なぜそんなに考え込んでいるんだ」
カイトは苦しげな表情で返す。
「それはバルムンクもでしょ?」
「・・・・・・」

今度は向こうが黙った。

「お前とは、ゆっくり話すときが来るような気がする。」
バルムンクは表情一つ変えず、立ち尽くしてつぶやいた。
「ぼくが・・・あの書を開かなかったら、違っていたかもね」
「そう願いたいものだ」
「また・・・」

カイトは下を向いたまま、うつろな瞳で、言った。
「会えたら、何か言って欲しいな」

一瞬きょとんとした彼は、笑顔で背を向けた。
「そうするよう、務める」



彼が足早で去ると、カイトは少し微笑んで、その方向を見つめた。
そしてゆっくりとゲートに近寄った。

ぼくは そんなに邪魔なのかな・・・

きみを想う事は 許されないのかな・・・

っておもってた…

「ぼくはきみを信じるよ」

そう言うと、ふわりと目を閉じて、青白い光に身を任せた。
行く先は・・・・・・メールで頼まれた。


Δサーバーの、ミストラルのところに。

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