彼は有名だ。フィアナの末裔と呼ばれ、「ザワン・シン」をクリアした。
そして白い羽根のついた美青年PCを操る。
タウンを歩けばすぐにファンが集まってしまう。彼の魅力というものだろう。
カイトといる時はさほど目立たないものの、ソロだとかなり目立つ。
まあ、雰囲気の硬さというものもあるのだろう。ソロの時の彼のオーラはとても冷たい。
彼は最近ずっとカイトと行動していたからこういう状態であるソロになると疲れが溜まるわけだ。
バルムンクはΛサーバーのルートタウン・カルミナ・ガデリカに来ていた。
ここは他と違って静かで落ち着いている。
例えば、Δマク・アヌの水の流れる水路の近くで休息していると人がいつのまにか自分を見ている。
―――俺にだってプライバシーは欲しい!
ということで彼は探した。エリアは確かに人が少ないのだが、ソロ―孤独で入って休憩、はまずい。
いつの間にか囲まれていたことだって少なくないし、タウンの方が休まる。
でも、プライバシーがない!ということでΔマク・アヌは即刻に案から落とされた。
Θドゥナ・ロリヤックは彼の苦手な"プチグソ"の楽園である為に却下。
プラスしてΣフォート・アウフはなにがいけないかと言えば、休める所がない。
少々暗いが、彼はカルミナ・ガデリカで休む事に決めた。
「バルムンク?こんな暗いところでアンタなにやってるの?」
「うわっ!」
まだ彼が落ち着いて橋の端に腰をかけてからそんなに時間が経っていない。
その彼を不思議そうにブラックローズが覗き込んでいた。
暗いところで真っ白なPCは目立つから別の場所で休憩しなさいよね、と彼女は腕組みをしながら言った。
そして彼のファンやレアハンターがその存在に気付いたのを見たブラックローズは
力任せに彼をカオスゲートに引っ張り、あきれてぶつくさ言いながら転送ボタンを押した。
「疲れてるならログアウトすればいいじゃない。カイトにしかアド教えてないからほぼソロなのは分かるけど。」
「すまない、だが今日はΔでカイトと待ち合わせが・・・・・・」
「そんな調子でカイトに迷惑かけちゃ駄目だからね!そんなのアタシが許さないから!」
保護者らしき姉の態度にバルムンクは素直にうなずいた。
「分かっている。すまないな、ブラックローズ」
彼女は苦笑いしながらバルムンクの肩を優しく叩いた。
「アンタもまだまだ子供じゃない・・・アタシよりも年上のくせに。」
もちろん、自分より2つも年下に子供扱いされた彼は苦い顔をした。
Δマク・アヌ。
彼はやはりこの町に来ると神経を使う。カイトはまだか!と思いつつ、ウロウロする。
難しそうな顔をしながら歩いていると小柄な誰かにぶつかった。
「った~っ。前向いて歩いてくれない、バルムンク?」
「ミストラル!」
本日・カイトと自分とパーティーを組む予定の呪紋使いである彼女は、カイトより早くここに到着していた。
「何考え事してたの?顔がすごい無表情なんだけど・・・」
「いや、大した事ないことだ。それよりカイトはまだか?」
ミストラルとバルムンクはカオスゲートのすぐ近くで彼を待つ事にした。
この二人の会話といえば、ミストラルが長々としゃべってから彼がああとかそうだなとかいうようなものだ。
果たしてこれは会話と言えるのか。昼間のせいか周りにPCはほとんどいなかった。
そして数分後、待ちわびていたカイトが現れた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「全然待ってないよ♪・・・でもバルムンクがなんか疲れてるみたい。」
「心配しなくていい、ただ少し疲れているだけだ・・・っ、うわっ!」
階段を下りて記録屋へ行こうと一行は進み始めた・・・が、バルムンクがよろけた!
「バルムンクっ?!」
カイトは自分より背の高いバルムンクを支えようとして彼の前に回ったのだが、彼の体重を支えきれなかった。
つまり、二人して階段をゴロゴロと転がり落ちたわけだ。リアルだったら痛いに違いない。
「二人とも・・・大丈夫?」
ミストラルが軽快に階段を1段飛ばしで駆け下りてくる。
彼女が二人を見降ろすと、バルムンクがカイトの頭を守るようにして抱きながら倒れていた。
「ご・・・ごめんバルムンク!ぼくが助けようとしたのに逆に助けられちゃって。」
「・・・・・・」
「彼、気を失ってるみたい。とりあえずアジトで休ませないと・・・・・・ってまさか、重くて立ち上がれないとか?」
カイトが彼の腕を持ち上げようとしたが動かず、カイトは抱かれたままの格好であることに困惑した。
―――カイトはミストラルに目で訴えた。ミストラルはにこっと笑う。そして杖を振った。
「ファリプス!ほーらー、バルムンク起きて!」
光が彼を包み込む。肉体的傷は癒えたが、彼は動かない。どうやら、リアルのほうの精神がボロボロのようだ。
駄目か・・・と、彼の腕の中でカイトががっくりと脱力するのをにこやかに見つめたミストラルが提案を持ちかける。
「私いい事思いついたんだけど。これなら絶対バルムンク起きるハズ♪」
「何?」
ミストラルは目をつぶり、両手で杖を持って上を見上げる。
「カイトが彼にこう言うの、ぼくがいるから安心して・・・って。」
―――バルムンクはカイトのいない時の状態になにか不安があるに違いないから、これでOKのはず・・・
カイトは目をつぶったバルムンクの額に指をびしっとつけ、優しげにつぶやいた。
「何があったのか知らないけど、ぼくがいるからもう大丈夫・・・安心して。」
「カイト、すまない・・・」
バルムンクは先ほどの事が恥ずかしくてうつむいた。
「何いってるんだよ、ぼくにとってバルムンクが大切だからこうして一緒にいるんじゃないか」
カイトは自分の言っている事が彼の心に別の意味で響いているのに気付いていないようだ。
ミストラルはバルムンクの横を通る際に彼に耳打ちした。
「どさくさにまぎれてカイトを抱きしめてたのは誰でしょう~」
「・・・言うなよ?」
「あは♪」
さあどうでしょう、とミストラルはスキップした。先を歩くカイトが振り返り、どうしたのと尋ねる。
「うん、なんでもない。ただ、カイトってカワイイなと思って。」
「・・・っ、そんなことないよ!」
ミストラルの言葉で彼女以外のパーティーメンバーは顔を伏せた。
のちにミストラル最強伝説が浮上したのは裏の話。
この記事にトラックバックする