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天球ギャラリー

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太陽神の贈り物を尋ねて7

「ここがサマンオサか…」

今まで居たランシール、アリアハンは海の国であり南国で暖かだったが、
途中で通ったバハラタは乾燥した大陸、グリンラッドは驚くほどの雪景色…
もとの世界であれほど雪が積もっている場所をイザはまだ見たことがなかった。
もっとも、人生の大半、つい最近まで山の上だけで暮らしてきたイザにとってはほとんどがはじめての場所なのであるが。

また、グリンラッドの祠は井戸とは大違いの空間であった。
三箇所のほかの祠と繋がるグリンラッドの祠には、要するにイザたちからすれば井戸が三つもあるように思えた。
きちんと壁で仕切られており、どこへ行く旅の扉だと親切にも札がつけられている。

この世界はイザたちのいた世界より進んでいるのだろうか。
それとも、イリス人たちが造った月鏡の塔のように、イザたちの時代には忘れられてしまった世界なのだろうか。

そしてここサマンオサはそれとはまた違った空間であった。

高い山に囲まれて海は見えず、荒々しい山地に起伏の激しい大地、そこを流れる一本の大きな川…
時折姿を見せるのは仮面を被った人型のモンスター、ゾンビマスターだ。
縄張りに入り込んできた侵入者だと思って襲ってくるようで、山地から離れて平坦な草原に出るとゾンビマスターの姿はまったく見えなくなった。

「ゾンビマスターは、もともとは隠れ住んでる生き物だ。
あれが草原や城の近くに頻繁に出てたあの頃が異常だったに違いねえ」

カンダタに連れられて道なりに進んでいく途中にも、種類は違ったがいろいろなモンスターに出会った。
バハラタ周辺で見た紫色のゴリラよりも一回り以上も大きな緑色のゴリラ、ベホマスライム、妙に甲羅の硬いガメゴンというワニだ。

カンダタに教わったのは、正攻法では効率の悪い敵もいるということだった。
ガメゴンにルカニをかけてから剣で倒しにいくよりも、遠くからチャモロが習得したばかりのザキで一発を狙うほうが効果的だということだった。
ザキはすべての敵に必ず効くわけではないし、回復できる魔力は残しておかないといけないが、結局回復につかう魔力のほうが多くなっては意味がないとカンダタは教えてくれた。

サマンオサの城下町に到着するともう暗かったので一泊することにした。
明日の朝、洞窟に向かうことになる。
イザたちは酒も控えめに布団にもぐった。



***



「ぎゃあっ!…なんだよ、イザ、ひやっとしたじゃねえかよぉ」
「ごめんごめん、悪気はなかった」

サマンオサの洞窟は沼地の真ん中、古びた橋を渡った先にあった。

朝起きたイザたちはカンダタが手紙を残して別の手がかりを探しに行ったことを知り、自分たちだけで洞窟を探索することに決めた。
地図を片手に、用意周到なほど薬草を買い込んで慎重に洞窟へと向かったところである。

鉄の橋は沼地の成分で変色がひどく、周辺にウロウロしているゾンビマスターの奇抜な黄色と赤と緑の装束も手伝って気味の悪さを存分にかもし出していた。

洞窟の中は地上よりも暑かった。
ところどころに水溜りが出来ているが、水はどれもぬるい。
チャモロが推測するに、これは地下水で、この暑さは火山が近い証拠なのではないかということだった。

階段を降り、地下二階に着くと、何もない一階とは打って変わって宝箱だらけだった。

「なんだこれ!」
「おい、開け放題か?まさかの」

ハッサンが近くにあった宝箱をあけようとしたので、イザはとっさにインパスを唱えた。
しかし、イザが赤い色を認識するころにはハッサンはもう箱を開けてしまっていた。

「うわああああ!」
「ハッサン!」

箱の中からは不気味な目と舌が飛び出し、重たい箱とは思えないスピードでイザたちのほうに跳びかかってきた。
弾丸のごとく跳んできた箱はチャモロの槍に跳ね飛ばされたが、まったく効いていない様子で再びこちらに向かってくる。

「ミミックだっ!」
「ミミックはザキをつかうよ!気をつけて!」

バーバラがギラの呪文でミミックの視界をさえぎった。

「走れ!」

一行は大急ぎで階段を駆け上った。
下から跳ね上がってくるミミックにイザはルカニを唱える。
ハッサンが大きく地を蹴って、ミミックめがけて飛び降りた。

「くらええええっ!!!」

上から飛び降りたハッサンの足がミミックの鉄の体に叩きつけられる。

「グェ!」

ミミックの体にびしっとヒビが入り、床に落下した。
舌がびくびくと動いているのを見てイザは剣を振り下ろした。

「あー、死ぬかと思った…。これからはインパスかけてから開けような…」
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太陽神の贈り物を尋ねて6

ルイーダの酒場を出たイザたちは再びアリアハンの港へ行き、バハラタ行きの船に乗った。
ランシールからアリアハンに向かうよりもはるかに時間はかかったが平和な船路で、出たモンスターといえばしびれくらげかマリンスライムくらいであった。
マリンスライムがスクルトをかけるのがかわいく思えるほど平和だった。

平和な海にかもめの鳴き声が響き、人々がおびえることなく生きている姿を目の当たりにして、イザたちは自分たちの世界のことを思い出す。

「俺たちは…はやくラーの鏡を手に入れなきゃ」

ただ、ラーの鏡を手に入れても、また壊されてしまうことだけは避けなくてはいけなかった。どうすればいいのか…
そう思ってぼんやりとバハラタの宿で日が暮れるのを待っていると、部屋の戸を叩く者が居た。
この世界に知り合いはほとんどいない―――警戒したイザたちは顔を見合わせ、部屋の中に居たチャモロとミレーユが武器を手に取って戸の脇に隠れた。

「はい―どちらさまでしょう」

イザが戸を開けると、そこには大柄な男が立っていた。
年は四、五十歳だろうか。年よりも目を引くのはその外見だ。
総髪に鬚髯、我の強そうな…自信に満ち溢れた野性味溢れる男である。顔は、眉が濃くて目も大きい、あちこちに戦いの傷であると思われる痕が見えた。
服は旅慣れた装束で、腰には大振りな剛剣がさしてある。
戦士というよりは、盗賊に見えた。

「俺は、カンダタ。ルビス様のお客ってーのはあんたたちかい」
「!」

驚くイザの肩を押して部屋に入った男は、しーっと指でイザたちを黙らせ、ミレーユとチャモロに武器を下ろすよう手で指して戸を閉めた。
戸の脇に武器をもった仲間が控えていることなどお見通しのようである。

チャモロが疑い深く尋ねる。
「ルビス様の…と言う割に、失礼ですが、そちらは盗賊のようにお見受けします」
「ああ、元盗賊だよ」

カンダタは両手の手のひらをぱっと見せて、隠し持ってるものがないことを見せた。

「俺はもともと義賊だった。王様の冠盗んだり、貴族の屋敷を襲ったりしてた。
そんなとき、勇者アレルにやられて改心したのよ。
あいつの親父には世話になってた。
その親父が死んだって聞いて、俺も黙ってられなくてな。
アレルが魔王を倒しにいくって聞いて、いろいろ情報集めしたりしたもんよ。
ルビス様が俺の枕元に現れて何か言ってったのはその魔王を倒したって時と、ついおとといだ」

カンダタの眼光が鋭くなった。

「この世界に客人が訪れている、ラーの鏡を探す手伝いをしてくれ…と」

「元盗賊の出番、というわけね」
と、ミレーユ。

「ああ…そこから俺なりに少し調べてみたんだが、アレルたちがサマンオサから持ち出した後どうなったのかがいまいちはっきりしねえ。
ひとつ、サマンオサの洞窟に戻した。
ふたつ、サマンオサの王族が保管している。
みっつ…これが一番最悪だ、行方がわからないアレルたちの誰かが持っている」

「あまり長い時間がかからないといいけど…。
私たちがこっちに来ている間むこうの時間はどうなってるのかしら」
「それはしらねえが、どのみち鏡がないと駄目なんだろ。
潔くあきらめて鏡に集中したらどうだ、姐さん」
「そうね…」

カンダタは鼻をかいた。

「ともかく、サマンオサの城にあるかどうかはもう明日の朝にはわかる。
城にないようなら洞窟にいってみるっきゃねえ。
今日は休んで、明日から大急ぎでサマンオサに向かってもらうぜ」



カンダタの言った通り、サマンオサの城にはなかった。
だが幸い、サマンオサの王族がサマンオサの洞窟に奉納しなおしたことを聞くことができたので、一度奉納したものをまた借り出すのもあれだが、洞窟に向かうことになった。

カンダタはイザたちよりも遥かに強かった。
ハッサンはカンダタに疾風のイリアに似たところを見出したらしい。
重量級のパワーがありながらの鋭く素早い攻撃に感動して、カンダタから秘訣を聞き出そうとしているようだ。
カンダタもそう易しくない。盗賊が手の内を明かすわけないのである。
…つまり、自分で見て盗めということである。

イザ一行だけではパワーとスピードを両立する攻撃手はいなかったので、カンダタから盗めることがたくさんあった。
ヒートギズモや紫色の気味の悪いキノコなどの野良モンスターを蹴散らしながら、カンダタと共にバハラタの北西にあるオリビアの岬へ向かった。

オリビアの岬は静かな湖に接する半島の先端部分である。
大昔、水難事故で引き裂かれた恋人の悲しい魂がさまよい、船が転覆する事故が多発した。
湖に身を投げた女の名前がオリビア…かつてオリビアの悲しい叫びが聞こえるたび船が転覆させられた岬、それがオリビアの岬なのである。

オリビアの岬には船着場以外に宿屋と堅牢な祠があった。
東の山脈を越えた先のさらに先の先にある極西のポルトガという国から派遣されてきたという兵士が警備をしているその祠は、東の果て、グリンラッドに一瞬で飛ぶことのできる「旅の扉」なのだという。
兵士は金髪に彫りの深い顔、色が白く、まだ若いのかそばかすが目立っていた。

カンダタに連れられて祠の中に入ると、どこか見たことのある景色だった。
「これ、あの井戸に似てない?」
イザは不思議とはじめてな気がしなかった。
「この光の漏れ方、確かに似ていますね」
と、チャモロ。

元いた世界には二つの世界をつなぐ井戸があった。
その井戸にそっくりなのである。
ただし、井戸ではなくてただの四角い空間から青い光が漏れているだけなのだが…

「見たことあったのか。不思議なもんだ、どこの世界にもあるのか」
「ってわけじゃないとおもいますけど…」

イザは苦笑しながら青い光に足を踏み入れた。

ほんねリップ

45万HITキリリクりんご茶さまにささげます。
「主ミレが喧嘩したら」というリクを頂きました。
遅くなってすみません!




緑豊かな森に囲まれた古めかしい館――グランマーズの館の前、ミレーユは一人頭を抱えていた。
切れ長の美しい目元には涙がたまっており、彼女がおなじく長い睫毛をぱちぱちとさせるたび、雫が陶器のように白い頬を伝って流れ落ちていく。

「無理よ…私には無理…。こうするしかなかったの…」

深いため息と共にミレーユは頭を抱えた。

真っ直ぐ、不器用だが熱い眼差しを向けられるとどうしても逃げてしまう。
こんなに暗い過去があって、こんなに体を張ったり見栄を張ったり、くだらないプライドを守ったりしてきた自分…
そんな自分には彼の姿は美しすぎた。

自分が彼に惹かれている…彼も自分を想ってくれている、はっと気付いたときは嬉しかったけれども、それは認めてはいけない事実で、彼の想いを受け入れることは彼の未来も暗くすることだとミレーユは考えていた。

「だめなの、私を…お願いだから私にかまわないで…つらい…」

ミレーユの苦しむ声は森のざわめきに飲み込まれた。



数分前のこと…進み先に困ったイザ達一行はグランマーズの館を訪れ、次の目的地を占ってもらいに来ていた。

ライフコッドで本体を取り戻したイザ、カルベローナで記憶を取り戻したバーバラ…
アモスやモンスターたちをロンガデセオに置いてきてしまったが、残っている5人の実力は彼らが居たときよりもはるかに強くなっている。

次の目的地はおそらく伝説の武具のひとつを探す場所になるだろう。
この先はどんな敵が待っているのだろう。
だが、イザは恐れをなすよりも、どちらかというと自信のほうが強かった。

イザが一番何かを恐れていた時期、それは旅に不慣れで本当の自分が無かった時期だった。
無邪気で、恐れていないように見えて恐れていた。
ハッサンが自分を取り戻して自信を取り戻したように、イザも本当の自分を取り戻して不思議な自信が身についていたのである。

それに加えて、イザには心の支えが存在していた。

その人は、イザがムドーを倒しに行くときから側にいてくれて、いつも戦いをサポートしてくれていた。
記憶を失った自分とハッサンを見守りながら、記憶が戻るまでは本当のイザはこうだったなどと押し付けたりしなかった。

…旅の途中で、ミレーユはイザにとって仲間とは違う大切な存在になっていたということに気付いたのはいつからだろう。
ミレーユの動きのひとつひとつに惹きつけられ、ミレーユが側にいないだけでミレーユのことを考えている自分が居ると。

本体を取り戻したイザはミレーユに気持ちを伝えるつもりで居た。
ミレーユは鋭いから自分の気持ちを知っているかもしれないし、今まで色々な出来事があった中でミレーユが自分を男としてみてくれている気もしていたから、余計に調子に乗っていた。

それにカルベローナでミレーユがバーバラの出自を知ってショックを受けて涙したのを知っていたし、涙を流したミレーユをなぐさめるように抱きしめても怒らなかったから。



ミレーユを館の裏の森に呼び出すと、ミレーユは調子の悪そうな顔でゆっくりとイザのほうに近付いてきた。
イザが一言、ミレーユのことが好きなんだ、と照れ交じりに言うと、ミレーユは冷たい瞳で

「そう言うとおもったわ…でも私は違うから」

と言い、さらに続けて、

「私はただの旅の仲間よ。何を勘違いしているのかしら、王子様?」
「…カルベローナのことも、クリアベールのことも、俺の勘違いだっていうのかよ」

イザは拳をぎゅっと握り締めた。
ミレーユは腕を組んで、冷たい瞳を向け続ける。

「そんなことで告白しようと思ったの」
「違…」
「イザったら本当に子供なのね。もっと大人なのかとおもってたのに」

ぐさぐさとミレーユのヒャドのような言葉がイザの心に刺さる。

「そんなに言わなくたっていいだろ…っ」
「これが私の気持ちだって伝えてるだけよ」

イザは必死にミレーユを見ていたが、ミレーユのほうがふっと目をそらし、髪をマントのように翻して館のほうに戻っていった。
その場に立ち尽くしたイザは、怒りのような悲しみのような感情をこらえようと、ぎゅっと両手の拳を握ったまま、歯を食いしばっていた。




「…色男が何を怖い顔して立っておるんじゃ?」

にやにやと笑いをこらえるような声で後ろに立っていたのはグランマーズであった。
イザは顔を見られまいと、ぷいと顔を背けた。

「何をって、どうせ見てたでしょう」
「うむ」
「じゃあ何も言うことないし」
「まぁまぁそう早とちりするでない。言葉しか信じないのはとーっても勿体無いことじゃぞ」

イザは振り向いた。
グランマーズの丸いしわしわな手がイザの手に何かを手渡した。

「これは?」

銀色の綺麗なケースに入った口紅だった。
口紅の色はワインレッド、絶対にミレーユがつけなそうな派手な色だ、とイザは考えて、
またミレーユ基準で自分が物事を見ていることに気付いて人知れず赤くなった。

「本音リップ、じゃ。これを塗った者は口紅を取るまで本音しか喋れん。
おぬしらはまだ若い。言葉一つで信念が折れることも多々あろうぞ。
本来年を重ねてそういうことを学んでいって欲しいものじゃが、年寄りの世話焼きというかのおー」

「ありがとうございます」

イザは銀の口紅を手に、グランマーズに深々と頭を下げ、ミレーユが去った方向に一目散に走り去っていった。

後に残ったグランマーズは一人高らかに笑いを響かせた。



ミレーユは玄関前の階段に座り込んで涙をぬぐっていたが、森のほうからあきらかにいま一番会いたくない人物が走ってくるのが見えて慌てて立ち上がった。

「ミレーユ、待って…」

背を向けてミレーユが家に入ろうとしたとき、ミレーユの冷えた腕をイザが捕まえる。

「最後のお願いだ…」
「…どっかいって」
「これを聞いてくれたらどっかいくから」

抱きしめさせてくれ、か?キスさせてくれ、か?
何を言われるだろうかとミレーユは予測しようとする。

しかし、イザが言った言葉はミレーユの予測の中には無かった物だった。

「この口紅を、つけてみてくれないか」
「…いいわ」

あまりに予想外で少々がっかり…いやほっとしたミレーユは、口紅をくるくると回した。
色は鮮やかな赤色で、艶やかに光っている。
イザの意図が読めないまま、ミレーユは口紅を唇に塗った。

「ミレーユは俺のこときらい?」

イザの質問にミレーユは嫌いと答えようとした。
だが口から出た言葉は正反対の言葉だったので、驚いて口をおさえ、

「なんで…そんなこと言うつもりじゃなかったのに」

「俺はミレーユのこと、好きだから。俺はミレーユの近くに居たい」
「でも、わ…私の側にいたって、いいことはないわ。私といないほうがあなたは幸せになれるのよ。どうか、私を放っておいて…」

自分の本音をぺらぺらとしゃべってしまう唇に驚きが隠せないミレーユはあたふたと周囲を見回す。
そんなミレーユの顔にイザの両手が添えられる。

「それが、本心だったのか」
「そうよ…!」

ミレーユは顔が赤くなるのを感じていたが、ここまで言ってしまった以上引き返せなかった。
赴くまま、言いたいことを言うだけいって逃げてしまおう、ミレーユはヤケになった。

「私なんかを好きにならないで。後悔するわ。本当に…あなたが傷つくところはみたくない、もっと傷つくところをみたくないの」
「俺は、ミレーユが好きなんだって…ミレーユがいいんだって、何回言わせるんだよ…恥ずかしい。後悔するわけないじゃないか。ミレーユが好きで何が悪い」

目を丸くして魔女は立ち尽くした。

「俺がミレーユを好きなの。ミレーユと一緒なら、不幸だとおもわれたってなんだっていい、ミレーユが居れば俺はいいんだ」
「…あなた、変わってるわ」
「そんなことない。ミレーユって高嶺の花っていうか、手を出しにくい女性ってイメージあるけど、本当はミレーユは誰よりも努力してて温かい人だって俺はおもってる」
「やぁね、いつの間にそんな風に観察してたの…」

言いながらミレーユは涙を流した。

「いままでそんなこと、言われたこともないわ」
「これからは、もういいって言われるくらい言ってやるんだ」
「もういいわ」

ふふっと笑ったミレーユをイザは強く抱きしめた。
イザは出会った時こんなにたくましかっただろうか。
ミレーユはイザの胸に体を預けながら不思議な安心感に目を閉じた。

「ミレーユと一緒に居られれば俺は幸せだよ。だから、変な心配なんかしなくていいから」
「…私も、イザと一緒に居たい……」

そんな二人の様子を木の陰からグランマーズが見守っていた。
二人がお互いを抱きしめて離さない様子を見て笑いをこらえながら、裏口のほうへと歩いていった。


END


~おまけ~

ミレーユさんは本音リップが怖いのです。
イザさんが一緒に寝るときにミレーユさんにつけようとするのです。
ミレーユさんは恥ずかしいので当然嫌がりますが、イザさんはミレーユさんのかわいい本音を聞きたくて押し問答がはじまるのです。
結局、二人とも本音リップをつけて布団に入って熱い夜をすごすのでした。
翌朝は恥ずかしくて顔も見れないそうです。

おしまい。




~あとがき~

主ミレが喧嘩するってあまりなさそうなので
本音を言わずにこじれることならありそうだな~とおもって
付き合う前の告白の時をイメージしてみました。

どらえもんの道具にありそうですみません!

2011.2.15 古川晃

太陽神の贈り物を尋ねて5

アリアハンは活気あふれる南の大都市であった。
大きな造船所に、レイドックと同じかそれよりも大きな倉庫がある。
沢山の商人たちがそれぞれの荷物を手にごった返しており、とても話を聞ける状況ではなかった。

先程の船に乗っていた船乗りたちは、情報を集めたかったらルイーダの酒場に行くといいと教えてくれた。
酒場は町の西はずれにあり、勇者ゆかりの観光地として有名であった。
なんでも、勇者と仲間が出会った場所なのだという。

また、その近くには勇者の生家があり、勇者の母が一人で来客をもてなしているということであった。

酒場には夜行ったほうがいいだろうということで意見が一致した一行は、勇者の母が住む生家を訪れた。
家は二階建てで少し年季が入っていた。
二階の窓にはしっかりとカーテンがされていて中はまったく見えない。

一行が玄関に近付くと、玄関の前には二人の兵士が立っていた。

「他所からいらっしゃった方ですか」

兵士の態度は思ったよりも丁寧であった。

「そうです、ランシールのほうから」
「申し訳ないがルシアさまにはお会いになることはできません」
「勇者のお母さんですか」
「そうです。最近体調を崩しておいでです。
どうしても面会したいのでしたら、陛下に許可を頂いてからにしてください」

一行は夜にルイーダの酒場に行くことに決め、夕刻まで自由行動を取ることにした。



市場の裏通りを進んでさらに奥にあったこの酒場の前は既に出来上がった商人や船乗りでいっぱいだった。

こういう場に慣れているハッサンを先頭に、イザたちは彼らの服を踏まないよう抜き足差し足で慎重に入り口の扉を目指した。

「いらっしゃい…おや?」

銀のトレイに酒の入ったグラスをこれでもかと乗せた女がイザたちを迎え入れる。
彼女はイザたちを見て目を丸くし、そして懐かしそうににやりと笑った。

「お客さんたち、相当やるね。
それにその顔、単に観光しにきたとは思えない…。いいよ、こっちへきな」

ルイーダと名乗る女主人はイザたちを奥のテーブルに案内し、店員を呼びつけてトレイを押し付け、イザの隣の席に腰を下ろした。

「あんたたちが相当な力の持ち主だっていうのはすぐわかったよ。
あいつと似たような雰囲気を持ってたからね」

ルイーダの指した先には一枚の絵がある。
そこには凛々しい黒髪の男と背が高く立派な体格の女戦士、腹回りが太すぎる僧侶、華奢な魔法使いが描かれていた。

「英雄オルテガの息子、勇者アレルだ。
この世界を救って、もう一つの世界も救って…自分は故郷に帰ることが出来なかった不憫な男さ。
…さあ、何が聞きたいんだい、このルイーダに答えられることならなんでも教えてあげるよ」

「じゃあ遠慮なく。…ラーの鏡を探しているんです。聞き覚えありませんか」

「ラーの鏡…たしかアレルがサマンオサで使って、偽の王様を暴いたってヤツだね。
あたしも、いまどこにあるかなんていう詳しいことはわからないけど、こっから北東の大陸にあるサマンオサに行ってみるといいんじゃないかい」

サマンオサ、とミレーユが地図を広げた。
ルイーダは北東の山に囲まれた陸地を指差す。

「十年ちょっとまえに山が噴火してさ、サマンオサには旅の扉を通る以外の方法じゃ行けないんだ。
ここ、グリンラッドって島に祠があって、ここからサマンオサへ一瞬で飛べるのさ」

「旅の扉」
「一瞬で?」

「旅の扉を知らないのかい?
まあそうか、ランシールのほうからじゃああんまり知らないかもねえ。
世界中に結構あるんだよ、兵士が張り付いてて使えない扉もあるっちゃあるけどね」

親切にもルイーダはグリンラッドへの行き方からサマンオサでの勇者アレルの物語についてまで詳しく教えてくれた。

イザが興味を持ったのは、アレルたちは南の洞窟から鏡を取ってきたということだった。

現実世界のほうではイリス人によって作られた月鏡の塔に安置されていたように、この洞窟も古代人が作ったのだろうか。
いろいろ仕掛けを作って鏡を守っていたのだろうか。

「まあ、今日は沢山飲んでいきな。
アリアハンの海の幸と、世界中の料理を腹いっぱい味わわせてやるからさ!」

旅人好き、つわもの好きのルイーダに乗せられてイザたち一行は遅くまでルイーダと語り合った。



サマンオサは東の大国であった。

しかし、急に温厚だった王の性格が豹変し、人々を苦しめ始める…実は本当の王は牢屋に閉じ込められており、豹変した王というのはボストロールが変化したまったくの偽者であった!

勇者アレル一行は父オルテガの親友であったサマンオサの忠臣サイモンを頼ろうとサマンオサを訪れたが、サイモンは既に偽王によって遠路に流され、行方知れずになった後であった。

アレルたちはサイモンの妻から聞いた伝説を元に南の洞窟を探索してラーの鏡を手に入れ、鏡を使ってボストロールの正体を見破り、サマンオサに平和をもたらした――


これがルイーダから聞いたサマンオサの物語だった。

太陽神の贈り物を尋ねて4

イザ達一行はランシールの町を出て、神官に教わった通り、東海岸にある港へ向かった。

町の人の話によると、ついこの間までこの世界は魔王バラモスという魔物によって恐怖に支配されていたのだそうだ。
バラモスを倒して世界に平和をもたらした勇者の出身が今目指しているアリアハンであるという。
現実世界で魔王ムドーを倒そうと奮闘してきたイザ達からすれば、もし学べることがあれば勇者に会って学んでおきたかった。

魔王から解放されただけあって、ランシールの周辺は魔物が少なかった。
穏やかで暖かな気候、島の中央部以外は険しい山も砂漠も無く、主に丈の低い草が生えている中時折妙に空に伸びている木があるくらいで見通しも良い。
渡り鳥が群れを作っている様子も見え、平和な世の中とはこういうものを言うのだろうか、平和でない世界からやってきた一行は魔物の影が少ないことに驚きを隠せなかった。

出る魔物といえば、青い羊のような魔物・ゴートドンくらいだ。
沈黙の羊のようにマホトーンをしてくるでもないし、二足歩行で凶悪な角を振り回すでもない。
単純に大きな角を武器に突進してくるか、群れで怪しげなボミオスとやらを唱えるだけである。

バーバラ、ミレーユ、チャモロの魔法使い三人組はその魔法に甚く興味を持って何とか真似できないかとあれこれしていたのだが、そもそもなかなかゴートドンに出会わないので盗み真似ることは難しかった。



そうこうしているうちに港についてしまった。

港はこじんまりとしており、レイドックやサンマリーノの港とは違って人気が少ない。
船から降りてきた人も、聖地巡礼に訪れた僧侶がほとんどである。

外へ向かう荷物は聖水や消え去り草とかいうあの怪しげな草だ。
怪しげな草の需要がどこにあるのかと尋ねると、なんでも、エジンベアという城で勇者ゆかりの品として高値で展示されているのだという。

ついでにラーの鏡についても聞いてみると、勇者たちが使っていたという話を聞くことはできたが、現在どこにあるのかについてはまったくわからなかった。

ランシールとゲントに似た匂いを感じなくも無いとチャモロは言った。

あの場所は、ゲントがそうであるように、世界が闇に落ちた際勇者の役に立つために何かを守り続ける場所なのだろう、と。
イザたちが来たときに降りた場所にあった堅固な扉は、かつて世界を救った勇者が通った扉なのかもしれなかった。



ランシールに別れを告げ、小型の定期船に乗った一行は世界地図で言うところの南海、ランシールとアリアハンの間にある海を航行していた。

海は穏やかだが、時折海の魔物が顔を出すので船には武器が積んであったようだ。
青い甲羅のカニ・ガニラスは不思議なほど甲羅が硬くて厄介だがさほど恐ろしい魔物ではない。

それよりも船乗りが恐れているのは、ゲント周辺にもいたしびれくらげだ。
集団で襲ってくるホイミスライムのような連中は麻痺毒を持ち、麻痺させられては町に帰るのが難しくなる。
ただ、僧侶が乗り合わせていればキアリクで対処できるので、乗り合わせているときは安心できる。

さて、半分はいったかと思われる頃、暗闇の中に雷が轟き始めた。

ザザァアアアアン…
波が荒く音を立て、甲板には雨と海水が少しずつたまりはじめる。

イザたちは室内に居たが、船乗りたちに頼まれて甲板へ出ることになった。

イザたちを甲板に案内した船乗りの男は年は四十を過ぎたところだろうか、頭髪をバンダナで押さえ、日に焼けた顔をあますところなく見せている。
筋肉隆々で、ハッサンと並んでも劣ることの無いたくましい海の男である。

彼が言うには、雷の鳴る日にはかならず海の主が現れるのだという。
勇者が世界を平和にする前は雷関係なく出没したのだというが、平和になって以来天候の悪い日以外は身を隠すようになったという。

ふと、チャモロが槍を身構えた。
「…これは」
「どうした」
イザやハッサンが船乗りの背をかばうように前に出た。

チャモロは言う。
「イカの匂いがします」

「さすが釣り好きだけあるわね…」
と、ミレーユ。

その時、一際大きな波で船が左に大きく傾いた。
「大王イカだっ!」

仰ぎ見ると、海から顔を出しているのは人間の何倍もあろうかという大きなイカである。
白いボディが雷光でつるりと光っているのが不気味で怪しい。
闇、荒れ狂う海、そこに見える白い不気味なイカ…イザたちは息を呑んだ。

「いいか、あんたたち、おれがこの糸を投げる間に一斉に攻撃してくれ!」
船乗りは手に金色の糸の束を持っていた。

「それは?」
「へへっ、斑の蜘蛛糸ってもんよ。
北の大陸じゃないと手に入らないんだが、勇者様のおかげで最近はアリアハンに沢山入ってくるのさ。
ほーらよっ!」

船乗りが糸を投げつけると、イカの十本の足に糸が絡みつき、イカの動きが急に鈍くなった。
「いまだ!」

「おう!いこう、みんな!」

意外なことにミレーユのとなえたラリホーがよく効いて、あっさりとイカは巨体を甲板に転がした。
バーバラのメラが、チャモロのバギが身を刻み、イカは熟睡したまま目を覚ますことは無かった。

「ラリホー使いがいたんなら、先に言ってもらえりゃよかったなぁ」
と船乗りが豪快に笑ったとき、なにやら水面にぶくぶくと泡が発生し始めた。

「なんだ…うわああああっ!」
「イザ、危ない、後ろッ!」

ザバアアアアアアアアアアッ!

海水が大量に甲板を流れ過ぎていく。
バーバラが足をバタバタさせ、ブーツに海水が染みるのを嫌がる声が聞こえるが、イザにはそちらを見る余裕が無かった。

目の前に現れたのは、先程の白いイカよりもさらに大きな緑色をした巨大なイカだった。
船の縁に絡みついた触手が巨体を持ち上げ、ずるずると甲板に這い上がってくる。

「お、おい!あんなやつが乗ったら沈んじまう!」
ハッサンがバランスを取るように甲板を走る。

「テ、テンタクルスだ…!とんでもねえっ…」
「なんだって?」
「テンタクルスだよ!海のバケモン中のバケモンだ!くそっ」

巨大イカの後ろに白いイカたちが見える。

「一、二、三…くそ、かなりいる」

「まって、やってみる」
ミレーユが躍り出た。
「ラリホー!」

巨大な緑のイカ、テンタクルスの動きが鈍くなった。
眠りまいとしているのか、必死に甲板に這い上がろうとしているが、中途半端な位置で動きを止めた。

「いまだ、あいつをはがすんだ!」

イザとチャモロ、バーバラがテンタクルスを船からはがそうと試みる。
ハッサンと他の船乗りたちが大きく舵を切り、イカの集団と反対のほうに船を動かし始めた。

「ラリホー…!」

ミレーユがラリホーを唱え続けるが魔力が続きそうに無い。
大王イカの数が多すぎるのだ。
そんなミレーユを見てバーバラがマヌーサで助太刀を始めた。

しかし、テンタクルスをはがすにはイザとチャモロではいまいち力不足である。

「イザさん、足を切ってしまいましょう」
「それしかないか…」

テンタクルスが目を覚まさないかと不安になりながら、イザとチャモロは甲板に乗り出した緑色の足を切りとばし、全力で残りの体を海に突き落とした。

「はぁはぁ、やったぞ…っ!」

船は眠りこけたイカの集団からぐんぐん距離をとって海の上を滑って行った。
その後は襲撃もなく、空もいつの間にか雲が減っていて、三日月が顔を出していた。

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