翌日の昼にはサラボナに到着することが出来た。
サラボナの町の門には守衛と使用人が詰め掛けており、フローラが訪れるとすぐにルドマン邸に連絡が行った。
使用人がフローラだけを連れて行こうとすると、フローラは強く言った。
「この方々はお父様の依頼した傭兵ではありませんわ。
お手紙を出したはずです。
私を護衛していた隊商が全滅したとき助けて頂き、ここまで私を連れてきてくださった命の恩人なのです。
この方々をお父様に会わせたいのです」
令嬢にそう言われては使用人は否とは言えない。
リュカはマーリンたちに宿にいくよう頼み、代表でリュカだけルドマン邸に同行することにした。
ルドマン邸はサラボナに入る前から見えるほど大きく、まさにサラボナのシンボルであった。
このサラボナの町は大商人ルドマンのお膝元、ルドマン家のためにある町と言っても過言ではなかった。
教会の前を通り、噴水の前を通り、白く美しい門をくぐると壮大な屋敷の玄関が見えた。
「おかえりなさいませ、フローラお嬢様」
「お父様はどちらです」
「居間にいらっしゃいますわ」
ラインハット城よりも豪奢なのではないかと思える室内装飾――
足元の赤い絨毯、壁には優美な風景画、天井は金箔で模様が描かれている――に目を取られながら、メイドに頭を下げ、リュカはフローラの後について歩いた。
居間に入ると大柄な老齢の男とそれより僅かに若そうな婦人が椅子に腰をかけていた。
「おお、フローラ…!よくぞ帰った!」
立ち上がって娘を抱擁するルドマンを、娘は遮って後ろを振り返った。
「ただいま戻りました、お父様。
あの、あちらはお手紙にも書きました、命の恩人でここまで送ってくださったリュカさんですわ。
他の方は宿屋に行ってらっしゃいます」
ルドマンはリュカを見た。
リュカはその目が厳しく、自分を品定めしているような雰囲気を漂わせていることに気付いた。
「娘をここまで傷ひとつなく送ってくれたことには礼を言おう。
だが、わしはこれから忙しい。娘が帰ってきたとなれば婿選びで忙しくなるのだ。
客人、申し訳ないが落ち着いてからまたサラボナを訪れてくれまいか。
そのときには大いに歓迎させてもらおう」
「お父様、リュカさんはお父様に見ていただきたいものが」
「おまえは部屋に戻りなさい。今日はもう疲れただろう、早く休みなさい。
誰か、客人を宿屋まで送って差し上げてくれ」
フローラの背をメイドが押し、リュカの手を別のメイドが取り、二人は別々の方向へと連れて行かれたのであった。
宿に帰ったリュカは一部始終をマーリンとピエールに話すも、ルドマンの言うことはもっともであると思った。
だが、ピエールの提案でフローラの婿選びの様子を少し見てからサラボナを離れることに決めた。
「フローラの結婚相手か…」
リュカはベッドに横になりながら、天井に手を伸ばした。
昨日まではこの手が届く所に彼女が居たのに。
彼女に一番近い男は、この自分であったのに。
もう彼女に手が届くことはない。
このサラボナという町自体が、自分とフローラの間に挟まる最大の砦なのだ…
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