それは、ちょっとした事故だった。
ウィルス汚染によるΩサーバーの一時的閉鎖が、TheWorldに激しい揺れと振動をひき起こしたのだ。
それによって一時的にさまざまな障害が付き纏った。
「マク・アヌから出られない!」
「キャラが動かないよ!」
「ノイズが走ってる!」
そんな中、カイトはカルミナ・ガデリカに来ていたのだが、酷い揺れに、呆然と立ち尽くしていた。
「サーバー・ダウン・・・・・・?」
ぐらぐらとは揺れるが、グラフィックが壊れる訳でもない。と、その時。
ブゥン・・・
こんな非常事態にカオスゲートを使う人間が、彼の目の前に転送されてきた。
Ωサーバーに最も近く被害が強いΣサーバーにいたのか、酷く慌てている。
そして、その人物は、彼が良く知る人物だった。
「バルムンク!」
カイトが駆け寄ると、バルムンクは力なく崩れ、がっくりと膝をついた。
石畳の床に両手を当て、荒い呼吸を繰り返す彼の肩に手を置いて、カイトは話し掛けた。
「大丈夫?」
バルムンクは顔を上げた。顔面蒼白で、疲れた顔をしている。
カイトは彼の片手をしっかりと握り、優しく微笑んだ。
「ここはまだ安全だから・・・あっちに行こう。」
「・・・すまない」
ゆっくりと彼を抱き起こし、路地裏の方に連れてゆく。
ノイズがバチバチと走り、地震が激しく続く中、壊れる事のないグラフィックの中を必死で歩きつづけた。
二人は極限状況におかれていた。
「カイト」
「なに?」
「・・・・・・なにか変じゃないか?」
ぴたっ。
一人称視点にしたはずは無いのに、いつの間にか視点がかわっている。
それに・・・
「ノイズ音が耳に突くように響くんだが」
「そんなはずは・・・・・」
キーーーーーーーーン!!!!!
「うわっ!」
「何だこの音はっ・・・!」
目の前が真っ白になった。白い視界の端の方で、なにかがチカリと光ったかと思ったら、強烈なフラッシュが大きく走る!
身体が浮くような不自然な感覚を覚えながら、必死で、見えない目を閉じた。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「生きてるか!?」
彼の声で意識が呼び戻された。
幸い、自分にも目の前の彼にも、グラフィックにも問題はない・・・・・・かのように思えた。
「生きてる、でも!」
カイトは手を握ったり開いたりしながら、困惑した表情を隠せずにいた。
「感覚がある・・・っ」
バルムンクは落ち着いた表情でカイトの方を向く。
「こんな状況ですまないが――」
「?」
彼は手の甲についた武具を外し、白い手でカイトの頬に触れた。
「お前に触れられて嬉しい」
「・・・っな、なにを言ってるの」
カイトが抵抗しない事をいいことに、白く細い指先で輪郭をなぞる。
(ここからは無かったので2007年8月に書き足しました)
二人はお互い、じっと見とれあって微動だにしなかった。
目の前にいるPCは3Dなのに温かい。
触れた、触れられたところからお互いの熱を感じるようで初々しく恥ずかしいのはなぜだろう。
「ずっと…こうしていられるなら、このままでも構わないのに」
カイトがそう呟いたころには徐々に視界がぼやけてきていたので、温もりを惜しむようにバルムンクが指を動かす。
「触れたいと思っていたのは俺のほうだ…」
熱っぽいその声にカイトは、自分の顔が真っ赤になったような気がした。
「ぼく…」
カイトの発した言葉は白い光に呑まれ、そのきっかり5秒後に二人は何事もなかったかのようにルートタウンのゲートに立ち尽くしていた。
周囲のPCが次々と疑問の言葉を口にして慌しく走り回る中、 あれはなんだったのだろう、とぼーっと思いをめぐらせる。
望まない混乱であったけれど、あの時間だけは無限に続いて欲しかったと二人だけは思っていたのだった。
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