その晩、懐かしい我が家のベッドで横になっているのにどうもなかなか眠れなかった。
寝返りを打つと、母がこちらを見ていて目が合う。
「ねれないの?」
「かあさんがさっき言ってたこと、思い出しちゃって」
目線をはずして、布団を持ち上げる。
「ふと考えたりとか、思い出したりとか…目で追っちゃうとか」
「じゃあ、手を繋いだらいやかしら、抱きしめられたら?キスされたら」
イザが自分にそんなことするなんて、と、ミレーユは軽く想像して恥ずかしくなって手で顔を覆った。
「ミレーユ」
母が優しく声をかける。
「恥ずかしいことじゃないわ。もっと堂々としなさい、確かめてみればいいのよ」
市場の路地を歩きながら、意識は右腕にいく。
シェリスタに被せられそうになったヴェールの代わりにイザに同行してもらうことにしたが、腕を組んで歩く必要まではなかった。
(ちょっと、やってみようと思った)
みんな仲間は寝ているし、シェリスタが見ていると思ったら妙にやってやろうという気になったのだ。
(イザと腕組んでる、あたし)
イザの腕に自分の腕を絡めて、細い路地を通る。
自分のほうに町の人の視線が集まっているのがわかるけれども、ガンディーノの城にいくことになった昔のあの時とは違う。
(わたしのことをみんな見ているけど、いまはひとりじゃないわ)
「ガンディーノの町も変わったわね…」
イザがこちらを向く。
「色々町を見てきたけど、こんなに組が幅をきかせてる町もないな」
「昔はもっとだったのよ、町のあちこちにギンドロ組が立ってたの」
たまたま立っていたギンドロ組の組員と目が合うと、あっちが慌てて頭を下げる。
「怖かったわ、でもガンディーノって近くに全然町とかないでしょ。
ここは閉鎖的なのよね。ギンドロ組に抑えられてたころは、彼らの要求が全てだったわ。
外に出て、広い世界に出て、気づく事なんてたくさんあった…」
「世界は広いよ」
イザが苦笑する。
「こんだけ回って、もう一人の俺が見つからないんだから」
「そうね…、イザはまだライフコッドのイザだものね」
「ライフコッドだってあるかわからないよ」
「こっちのレイドックからは繋がってないのが不思議ね、あっちはあっちでレイドックとアモールが陸路で繋がってないし」
ぎゅっと、イザの手を握った。
「大丈夫よ、ガンディーノに一緒にきてくれたんだもの、今度はわたしがライフコッドまでついていくわ」
「ありがと、助かるよ」
太陽のような暖かいイザの微笑みが、握った手が、ミレーユの心を安心させる。
肩に頭を預けたくなる。クリアベールで抱き上げられたことを思い出す。
(ああ、わたしはこの人が好きなんだわ…)
ガンディーノ城を眺めるイザの横顔を見つめながら、この想いは心に秘めておこうとミレーユは誓うのだった。
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