「はぁ、はぁ…!」
少女は走っていた。
通気口を抜けて埃と煤にまみれてしまった白いドレスの裾を持ち、足は裸足で、
ガンディーノの城が遠く見えるようになる所まで必死に走り続けていた。
小高い丘の上まで走ると、ガンディーノの城下町が見えた。
そして反対側には港町が見える。
ミレーユは町に残してきた弟と両親、そして誤解したままの親友のことを思って胸を押さえた。
かちゃ、ミレーユの手首で何かが音を鳴らした。
ミレーユの手首についていたのは白い玉を二つ、
高級そうな丈夫な紐で結びつけた腕飾りだった。
「シェリスタからもらった腕輪で逃げてきちゃったけど、これは大丈夫だったのね」
突如現れて、目の前で透明になって消えた王子様がくれた腕飾りだ。
それを見ていると、案外これからなんとかなる気がしてきた。
ミレーユは自分の身を見直した。
シェリスタがくれた腕輪以外の装飾品は無事だ。
ギンドロが用意してくれた飾りと服を売って船に乗って、グランマーズに助けを求めにいこう、そうミレーユは硬く誓った。
その数年後、ミレーユは額にサークレットを嵌め、
魔法使いギルドで調達した衣装を身に着けて立ち上がる。
そのとき、腕飾りはしていなかったが、
似たような白い玉のイヤリングが耳に下がっていた。
・・・・・
「そろそろ海に出るぜ」
ハッサンの声を聞いて、レイドック王子イズュラーヒンは我に返った。
父がムドー討伐に出かけて目覚めぬ眠りに入ったのち、
母もまたムドーの研究をしすぎて目覚めぬ眠りに入ってしまった。
これは自分で倒してくるしかないと計画を練っていた夜、
抜け出そうと庭でごそごそしていたところ、
忍び込んできたハッサンに出会ったのだ。
意気投合して改めて準備を重ねた二人は今夜、
船に乗ってムドーの島を目指すことにしていた。
レイドック郊外、海に近い場所にレイドック国の軍用船のドックがあった。
不思議なことに門の警備員たちはみな眠りこけており、
イザたちは何の苦労もすることなく中に入り込むことが出来てしまった。
レイドックの紋章がついた王族用の船の前に、誰か人が立っている。
「イザ、ハッサン。あなたたちが来るのを待っていたわ」
低めの女の声だ。ハッサンが身構える。
「誰だ!」
「わたしはミレーユ。あなたたちと一緒にムドーを倒しにいくの」
ミレーユ、金髪に青い目、美しい容姿、イザには一人だけ心当たりがあった。
ハッサンがいぶかしげにたずねる。
「あんたに何ができるんだ?相手は魔王ムドーだぜ」
「逆に言うわ、ムドーの城は切り立った崖の上。
どうやって行くつもり?船で島にはつけても城にはつけないわよ。
わたしは渡る方法を知っているわ」
ハッサンとミレーユがしばし無言で対峙する。
その緊張感を持った様子が、イザには奇妙に安心を覚えるのであった。
ハッサンもミレーユも自分の味方だという根拠のない自信があるからだった。
「…どう?一緒にいかない?」
「城までいけねぇんじゃ始まらないしな、よろしく頼むぜ姐さん」
ハッサンがひょいと船に乗り込んで姿を消すと、
ミレーユはイザのほうを向き、無言で頭を下げた。
イザは声をかけた。
「ミレーユって、あの、ミレーユだろ?」
「…ごめんなさい王子様、あたし抜け出してきちゃった」
ミレーユの横顔が月に照らされて、少し悪戯な表情がイザにはよく見えた。
「こっちこそ、助けに行くって言ったのに」
「いいの、あたしは自力でここまでこれた、
でもあなたのご両親は自力では目覚められないに違いないんだから」
金色の髪が海風にふかれて耳をさらけ出し、耳には白い真珠のイヤリングがついているのがわかった。
「真珠は身につける人を邪気から保護し、困難を克服する力をくれる…。
あなたがくれた腕飾りがあったから、ここまで信じてやってこれたわ。
今度はわたしがあなたの役に立ってみせる」
細い腕が差し出された。
「ありがとう、そして…よろしくね」
あとがき元はといえば、りんご茶さんがチビイザのイラストを描いていて
「あ、幼少パラレルもいいな!」とか思って書き始めたのでした。
昔ちょっとつながりがあって~というのがすごく好きなので。
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