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太陽神の贈り物を尋ねて4

イザ達一行はランシールの町を出て、神官に教わった通り、東海岸にある港へ向かった。

町の人の話によると、ついこの間までこの世界は魔王バラモスという魔物によって恐怖に支配されていたのだそうだ。
バラモスを倒して世界に平和をもたらした勇者の出身が今目指しているアリアハンであるという。
現実世界で魔王ムドーを倒そうと奮闘してきたイザ達からすれば、もし学べることがあれば勇者に会って学んでおきたかった。

魔王から解放されただけあって、ランシールの周辺は魔物が少なかった。
穏やかで暖かな気候、島の中央部以外は険しい山も砂漠も無く、主に丈の低い草が生えている中時折妙に空に伸びている木があるくらいで見通しも良い。
渡り鳥が群れを作っている様子も見え、平和な世の中とはこういうものを言うのだろうか、平和でない世界からやってきた一行は魔物の影が少ないことに驚きを隠せなかった。

出る魔物といえば、青い羊のような魔物・ゴートドンくらいだ。
沈黙の羊のようにマホトーンをしてくるでもないし、二足歩行で凶悪な角を振り回すでもない。
単純に大きな角を武器に突進してくるか、群れで怪しげなボミオスとやらを唱えるだけである。

バーバラ、ミレーユ、チャモロの魔法使い三人組はその魔法に甚く興味を持って何とか真似できないかとあれこれしていたのだが、そもそもなかなかゴートドンに出会わないので盗み真似ることは難しかった。



そうこうしているうちに港についてしまった。

港はこじんまりとしており、レイドックやサンマリーノの港とは違って人気が少ない。
船から降りてきた人も、聖地巡礼に訪れた僧侶がほとんどである。

外へ向かう荷物は聖水や消え去り草とかいうあの怪しげな草だ。
怪しげな草の需要がどこにあるのかと尋ねると、なんでも、エジンベアという城で勇者ゆかりの品として高値で展示されているのだという。

ついでにラーの鏡についても聞いてみると、勇者たちが使っていたという話を聞くことはできたが、現在どこにあるのかについてはまったくわからなかった。

ランシールとゲントに似た匂いを感じなくも無いとチャモロは言った。

あの場所は、ゲントがそうであるように、世界が闇に落ちた際勇者の役に立つために何かを守り続ける場所なのだろう、と。
イザたちが来たときに降りた場所にあった堅固な扉は、かつて世界を救った勇者が通った扉なのかもしれなかった。



ランシールに別れを告げ、小型の定期船に乗った一行は世界地図で言うところの南海、ランシールとアリアハンの間にある海を航行していた。

海は穏やかだが、時折海の魔物が顔を出すので船には武器が積んであったようだ。
青い甲羅のカニ・ガニラスは不思議なほど甲羅が硬くて厄介だがさほど恐ろしい魔物ではない。

それよりも船乗りが恐れているのは、ゲント周辺にもいたしびれくらげだ。
集団で襲ってくるホイミスライムのような連中は麻痺毒を持ち、麻痺させられては町に帰るのが難しくなる。
ただ、僧侶が乗り合わせていればキアリクで対処できるので、乗り合わせているときは安心できる。

さて、半分はいったかと思われる頃、暗闇の中に雷が轟き始めた。

ザザァアアアアン…
波が荒く音を立て、甲板には雨と海水が少しずつたまりはじめる。

イザたちは室内に居たが、船乗りたちに頼まれて甲板へ出ることになった。

イザたちを甲板に案内した船乗りの男は年は四十を過ぎたところだろうか、頭髪をバンダナで押さえ、日に焼けた顔をあますところなく見せている。
筋肉隆々で、ハッサンと並んでも劣ることの無いたくましい海の男である。

彼が言うには、雷の鳴る日にはかならず海の主が現れるのだという。
勇者が世界を平和にする前は雷関係なく出没したのだというが、平和になって以来天候の悪い日以外は身を隠すようになったという。

ふと、チャモロが槍を身構えた。
「…これは」
「どうした」
イザやハッサンが船乗りの背をかばうように前に出た。

チャモロは言う。
「イカの匂いがします」

「さすが釣り好きだけあるわね…」
と、ミレーユ。

その時、一際大きな波で船が左に大きく傾いた。
「大王イカだっ!」

仰ぎ見ると、海から顔を出しているのは人間の何倍もあろうかという大きなイカである。
白いボディが雷光でつるりと光っているのが不気味で怪しい。
闇、荒れ狂う海、そこに見える白い不気味なイカ…イザたちは息を呑んだ。

「いいか、あんたたち、おれがこの糸を投げる間に一斉に攻撃してくれ!」
船乗りは手に金色の糸の束を持っていた。

「それは?」
「へへっ、斑の蜘蛛糸ってもんよ。
北の大陸じゃないと手に入らないんだが、勇者様のおかげで最近はアリアハンに沢山入ってくるのさ。
ほーらよっ!」

船乗りが糸を投げつけると、イカの十本の足に糸が絡みつき、イカの動きが急に鈍くなった。
「いまだ!」

「おう!いこう、みんな!」

意外なことにミレーユのとなえたラリホーがよく効いて、あっさりとイカは巨体を甲板に転がした。
バーバラのメラが、チャモロのバギが身を刻み、イカは熟睡したまま目を覚ますことは無かった。

「ラリホー使いがいたんなら、先に言ってもらえりゃよかったなぁ」
と船乗りが豪快に笑ったとき、なにやら水面にぶくぶくと泡が発生し始めた。

「なんだ…うわああああっ!」
「イザ、危ない、後ろッ!」

ザバアアアアアアアアアアッ!

海水が大量に甲板を流れ過ぎていく。
バーバラが足をバタバタさせ、ブーツに海水が染みるのを嫌がる声が聞こえるが、イザにはそちらを見る余裕が無かった。

目の前に現れたのは、先程の白いイカよりもさらに大きな緑色をした巨大なイカだった。
船の縁に絡みついた触手が巨体を持ち上げ、ずるずると甲板に這い上がってくる。

「お、おい!あんなやつが乗ったら沈んじまう!」
ハッサンがバランスを取るように甲板を走る。

「テ、テンタクルスだ…!とんでもねえっ…」
「なんだって?」
「テンタクルスだよ!海のバケモン中のバケモンだ!くそっ」

巨大イカの後ろに白いイカたちが見える。

「一、二、三…くそ、かなりいる」

「まって、やってみる」
ミレーユが躍り出た。
「ラリホー!」

巨大な緑のイカ、テンタクルスの動きが鈍くなった。
眠りまいとしているのか、必死に甲板に這い上がろうとしているが、中途半端な位置で動きを止めた。

「いまだ、あいつをはがすんだ!」

イザとチャモロ、バーバラがテンタクルスを船からはがそうと試みる。
ハッサンと他の船乗りたちが大きく舵を切り、イカの集団と反対のほうに船を動かし始めた。

「ラリホー…!」

ミレーユがラリホーを唱え続けるが魔力が続きそうに無い。
大王イカの数が多すぎるのだ。
そんなミレーユを見てバーバラがマヌーサで助太刀を始めた。

しかし、テンタクルスをはがすにはイザとチャモロではいまいち力不足である。

「イザさん、足を切ってしまいましょう」
「それしかないか…」

テンタクルスが目を覚まさないかと不安になりながら、イザとチャモロは甲板に乗り出した緑色の足を切りとばし、全力で残りの体を海に突き落とした。

「はぁはぁ、やったぞ…っ!」

船は眠りこけたイカの集団からぐんぐん距離をとって海の上を滑って行った。
その後は襲撃もなく、空もいつの間にか雲が減っていて、三日月が顔を出していた。
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