アリアハンは活気あふれる南の大都市であった。
大きな造船所に、レイドックと同じかそれよりも大きな倉庫がある。
沢山の商人たちがそれぞれの荷物を手にごった返しており、とても話を聞ける状況ではなかった。
先程の船に乗っていた船乗りたちは、情報を集めたかったらルイーダの酒場に行くといいと教えてくれた。
酒場は町の西はずれにあり、勇者ゆかりの観光地として有名であった。
なんでも、勇者と仲間が出会った場所なのだという。
また、その近くには勇者の生家があり、勇者の母が一人で来客をもてなしているということであった。
酒場には夜行ったほうがいいだろうということで意見が一致した一行は、勇者の母が住む生家を訪れた。
家は二階建てで少し年季が入っていた。
二階の窓にはしっかりとカーテンがされていて中はまったく見えない。
一行が玄関に近付くと、玄関の前には二人の兵士が立っていた。
「他所からいらっしゃった方ですか」
兵士の態度は思ったよりも丁寧であった。
「そうです、ランシールのほうから」
「申し訳ないがルシアさまにはお会いになることはできません」
「勇者のお母さんですか」
「そうです。最近体調を崩しておいでです。
どうしても面会したいのでしたら、陛下に許可を頂いてからにしてください」
一行は夜にルイーダの酒場に行くことに決め、夕刻まで自由行動を取ることにした。
市場の裏通りを進んでさらに奥にあったこの酒場の前は既に出来上がった商人や船乗りでいっぱいだった。
こういう場に慣れているハッサンを先頭に、イザたちは彼らの服を踏まないよう抜き足差し足で慎重に入り口の扉を目指した。
「いらっしゃい…おや?」
銀のトレイに酒の入ったグラスをこれでもかと乗せた女がイザたちを迎え入れる。
彼女はイザたちを見て目を丸くし、そして懐かしそうににやりと笑った。
「お客さんたち、相当やるね。
それにその顔、単に観光しにきたとは思えない…。いいよ、こっちへきな」
ルイーダと名乗る女主人はイザたちを奥のテーブルに案内し、店員を呼びつけてトレイを押し付け、イザの隣の席に腰を下ろした。
「あんたたちが相当な力の持ち主だっていうのはすぐわかったよ。
あいつと似たような雰囲気を持ってたからね」
ルイーダの指した先には一枚の絵がある。
そこには凛々しい黒髪の男と背が高く立派な体格の女戦士、腹回りが太すぎる僧侶、華奢な魔法使いが描かれていた。
「英雄オルテガの息子、勇者アレルだ。
この世界を救って、もう一つの世界も救って…自分は故郷に帰ることが出来なかった不憫な男さ。
…さあ、何が聞きたいんだい、このルイーダに答えられることならなんでも教えてあげるよ」
「じゃあ遠慮なく。…ラーの鏡を探しているんです。聞き覚えありませんか」
「ラーの鏡…たしかアレルがサマンオサで使って、偽の王様を暴いたってヤツだね。
あたしも、いまどこにあるかなんていう詳しいことはわからないけど、こっから北東の大陸にあるサマンオサに行ってみるといいんじゃないかい」
サマンオサ、とミレーユが地図を広げた。
ルイーダは北東の山に囲まれた陸地を指差す。
「十年ちょっとまえに山が噴火してさ、サマンオサには旅の扉を通る以外の方法じゃ行けないんだ。
ここ、グリンラッドって島に祠があって、ここからサマンオサへ一瞬で飛べるのさ」
「旅の扉」
「一瞬で?」
「旅の扉を知らないのかい?
まあそうか、ランシールのほうからじゃああんまり知らないかもねえ。
世界中に結構あるんだよ、兵士が張り付いてて使えない扉もあるっちゃあるけどね」
親切にもルイーダはグリンラッドへの行き方からサマンオサでの勇者アレルの物語についてまで詳しく教えてくれた。
イザが興味を持ったのは、アレルたちは南の洞窟から鏡を取ってきたということだった。
現実世界のほうではイリス人によって作られた月鏡の塔に安置されていたように、この洞窟も古代人が作ったのだろうか。
いろいろ仕掛けを作って鏡を守っていたのだろうか。
「まあ、今日は沢山飲んでいきな。
アリアハンの海の幸と、世界中の料理を腹いっぱい味わわせてやるからさ!」
旅人好き、つわもの好きのルイーダに乗せられてイザたち一行は遅くまでルイーダと語り合った。
サマンオサは東の大国であった。
しかし、急に温厚だった王の性格が豹変し、人々を苦しめ始める…実は本当の王は牢屋に閉じ込められており、豹変した王というのはボストロールが変化したまったくの偽者であった!
勇者アレル一行は父オルテガの親友であったサマンオサの忠臣サイモンを頼ろうとサマンオサを訪れたが、サイモンは既に偽王によって遠路に流され、行方知れずになった後であった。
アレルたちはサイモンの妻から聞いた伝説を元に南の洞窟を探索してラーの鏡を手に入れ、鏡を使ってボストロールの正体を見破り、サマンオサに平和をもたらした――
これがルイーダから聞いたサマンオサの物語だった。
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