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妖精の鏡2

ビスタの港に行くのはこれで二回目だった。
一回目はよく覚えては居ないけれど私がまだ本当に小さい頃のことで、ぼんやりとした明かりしかなかった所を出て、いろんな人に出会って最後に父―――ルドマンに出会った頃のこと。
ルドマンの子になって手を繋がれながら見えた青いもの、それが初めて見た海で、その頃はまだ海が怖かった。
怖くて動かないでいたら父が抱き上げてくれて、大丈夫だよと言ってくれた。今回は―――

「ルドマン殿、本当にかたじけない」
「いやいや、気にする事はないぞパパス殿」

あれから二年が経って、サラボナからお客さまを乗せてビスタへいく事になった。
父は色んな所へ仕事で出かける時、私を連れて行ってくれる。
サラボナに居ると色んな人が私を椅子に座らせようとして、その目をかいくぐっては庭で遊んだりしたけれど、船に乗っているときや外に出かけている時は何を見るのも楽しいし、父に聞けば何でも教えてくれた。
だから私は旅をするのが好きだと思う。
ただ母はあまり船旅が好きでなくて、旅をするとき側にいるのはいつも父だけだった。

「おや、そちらのお嬢さんも船に乗せていかれるのですか?」

父が話していた相手は父とは違った大人の人だった。
髪は束ねているだけだけれど、きりっとした黒い眉に鋭い目をしていて、父のように商人という感じではなかった。
それもそのはずで、その人の体には沢山の傷が見えて、持っている剣はずいぶん汚れていた。
私もいままで色んな旅人さんを見てきたけれど、この人ほど何か感じさせる雰囲気を持った人はいなかった。

「ええ。娘には幼いうちに出来るだけ外の世界を見させてやりたいのです」
「ふむ…年はおいくつで?」
「7つになったばかりで」
「7つですか、ではうちの倅よりも一つ上ですね。息子は6歳なので」

旅人さんの後ろに立っていた少年が顔を出した。その顔をみた瞬間、黒い目にぐっと引き込まれる気がした。

(不思議な目…)

紫のターバンを巻いて簡単な旅の支度をしているが、親と違って慣れていないのか腕も足も傷がない。
子供だからというのもあるのだろうけれど、背に背負っているのは剣ではなくて、持ち手に布が巻かれた木の棒だった。

「おお、パパス殿によく似た子ですな。お名前は?」
「リュカ」
「そうかそうか、リュカくんは利発そうじゃな」
「恐れ入ります」

話し込んでいると、船の方から声がかかった。

「おお、そろそろ時間のようだ。パパス殿、乗りなされ」
「ではありがたく」

私の方を見た旅人さんが、手を伸ばした。

「お嬢さんはまだ背が小さくて一人で乗れないでしょう、わたくしめが乗せて差し上げましょう」

と、笑顔で私を持ち上げて船に乗せてくれた。
けれど、その動きと言葉がどこかの貴族のようで驚いてしまった。
どう見ても貴族とは思えない格好で、商人の父の方が貴族に近い服を着ていたものだから。
父とは違うがっしりした手は、私を降ろすと、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。

「ありがとう」

自然とお礼が口に出た。

「どういたしまして」

見上げると、旅人さんがとても大きく感じられた。
微笑んだ旅人さんは次に男の子を船に乗せ、最後に自分が乗った。
その後父が乗って出発の合図をすると、船はゆっくりと動き出した。
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