ルイーダの酒場を出たイザたちは再びアリアハンの港へ行き、バハラタ行きの船に乗った。
ランシールからアリアハンに向かうよりもはるかに時間はかかったが平和な船路で、出たモンスターといえばしびれくらげかマリンスライムくらいであった。
マリンスライムがスクルトをかけるのがかわいく思えるほど平和だった。
平和な海にかもめの鳴き声が響き、人々がおびえることなく生きている姿を目の当たりにして、イザたちは自分たちの世界のことを思い出す。
「俺たちは…はやくラーの鏡を手に入れなきゃ」
ただ、ラーの鏡を手に入れても、また壊されてしまうことだけは避けなくてはいけなかった。どうすればいいのか…
そう思ってぼんやりとバハラタの宿で日が暮れるのを待っていると、部屋の戸を叩く者が居た。
この世界に知り合いはほとんどいない―――警戒したイザたちは顔を見合わせ、部屋の中に居たチャモロとミレーユが武器を手に取って戸の脇に隠れた。
「はい―どちらさまでしょう」
イザが戸を開けると、そこには大柄な男が立っていた。
年は四、五十歳だろうか。年よりも目を引くのはその外見だ。
総髪に鬚髯、我の強そうな…自信に満ち溢れた野性味溢れる男である。顔は、眉が濃くて目も大きい、あちこちに戦いの傷であると思われる痕が見えた。
服は旅慣れた装束で、腰には大振りな剛剣がさしてある。
戦士というよりは、盗賊に見えた。
「俺は、カンダタ。ルビス様のお客ってーのはあんたたちかい」
「!」
驚くイザの肩を押して部屋に入った男は、しーっと指でイザたちを黙らせ、ミレーユとチャモロに武器を下ろすよう手で指して戸を閉めた。
戸の脇に武器をもった仲間が控えていることなどお見通しのようである。
チャモロが疑い深く尋ねる。
「ルビス様の…と言う割に、失礼ですが、そちらは盗賊のようにお見受けします」
「ああ、元盗賊だよ」
カンダタは両手の手のひらをぱっと見せて、隠し持ってるものがないことを見せた。
「俺はもともと義賊だった。王様の冠盗んだり、貴族の屋敷を襲ったりしてた。
そんなとき、勇者アレルにやられて改心したのよ。
あいつの親父には世話になってた。
その親父が死んだって聞いて、俺も黙ってられなくてな。
アレルが魔王を倒しにいくって聞いて、いろいろ情報集めしたりしたもんよ。
ルビス様が俺の枕元に現れて何か言ってったのはその魔王を倒したって時と、ついおとといだ」
カンダタの眼光が鋭くなった。
「この世界に客人が訪れている、ラーの鏡を探す手伝いをしてくれ…と」
「元盗賊の出番、というわけね」
と、ミレーユ。
「ああ…そこから俺なりに少し調べてみたんだが、アレルたちがサマンオサから持ち出した後どうなったのかがいまいちはっきりしねえ。
ひとつ、サマンオサの洞窟に戻した。
ふたつ、サマンオサの王族が保管している。
みっつ…これが一番最悪だ、行方がわからないアレルたちの誰かが持っている」
「あまり長い時間がかからないといいけど…。
私たちがこっちに来ている間むこうの時間はどうなってるのかしら」
「それはしらねえが、どのみち鏡がないと駄目なんだろ。
潔くあきらめて鏡に集中したらどうだ、姐さん」
「そうね…」
カンダタは鼻をかいた。
「ともかく、サマンオサの城にあるかどうかはもう明日の朝にはわかる。
城にないようなら洞窟にいってみるっきゃねえ。
今日は休んで、明日から大急ぎでサマンオサに向かってもらうぜ」
カンダタの言った通り、サマンオサの城にはなかった。
だが幸い、サマンオサの王族がサマンオサの洞窟に奉納しなおしたことを聞くことができたので、一度奉納したものをまた借り出すのもあれだが、洞窟に向かうことになった。
カンダタはイザたちよりも遥かに強かった。
ハッサンはカンダタに疾風のイリアに似たところを見出したらしい。
重量級のパワーがありながらの鋭く素早い攻撃に感動して、カンダタから秘訣を聞き出そうとしているようだ。
カンダタもそう易しくない。盗賊が手の内を明かすわけないのである。
…つまり、自分で見て盗めということである。
イザ一行だけではパワーとスピードを両立する攻撃手はいなかったので、カンダタから盗めることがたくさんあった。
ヒートギズモや紫色の気味の悪いキノコなどの野良モンスターを蹴散らしながら、カンダタと共にバハラタの北西にあるオリビアの岬へ向かった。
オリビアの岬は静かな湖に接する半島の先端部分である。
大昔、水難事故で引き裂かれた恋人の悲しい魂がさまよい、船が転覆する事故が多発した。
湖に身を投げた女の名前がオリビア…かつてオリビアの悲しい叫びが聞こえるたび船が転覆させられた岬、それがオリビアの岬なのである。
オリビアの岬には船着場以外に宿屋と堅牢な祠があった。
東の山脈を越えた先のさらに先の先にある極西のポルトガという国から派遣されてきたという兵士が警備をしているその祠は、東の果て、グリンラッドに一瞬で飛ぶことのできる「旅の扉」なのだという。
兵士は金髪に彫りの深い顔、色が白く、まだ若いのかそばかすが目立っていた。
カンダタに連れられて祠の中に入ると、どこか見たことのある景色だった。
「これ、あの井戸に似てない?」
イザは不思議とはじめてな気がしなかった。
「この光の漏れ方、確かに似ていますね」
と、チャモロ。
元いた世界には二つの世界をつなぐ井戸があった。
その井戸にそっくりなのである。
ただし、井戸ではなくてただの四角い空間から青い光が漏れているだけなのだが…
「見たことあったのか。不思議なもんだ、どこの世界にもあるのか」
「ってわけじゃないとおもいますけど…」
イザは苦笑しながら青い光に足を踏み入れた。
PR