リュカたちはこうしてルラフェンを発った。
サラボナまでという限定的な付き合いにはなるが、新しい仲間を加え、馬車は活気付いていた。
スラリンが盛り上がるのも当然のことである、今までリュカの旅にこんなに美しい女性が同行したことは…マリアが神の塔に同行した時だけだったからである。
マリアはフローラと違って戦うことはできないし、魔法が使えるわけでもない。
基本的には馬車に居てもらって、神の塔に着いてからはヘンリーがその横に張り付く形で頂上まで行った。
マリアは確かに美しい少女だった。
金色の髪に邪気のない澄んだ瞳、この間まで光の教団の信者だったこともあって奴隷生活で心身がボロボロになってしまったわけでもなく、まだ人を信じるという清らかさを湛えていた。
奴隷生活が長かったリュカとヘンリーから見れば、マリアは汚してはならない一点の光のような、天使のような存在であった。
そしてリュカにとっては、親友の想い人であるからこれ以上の行為を抱いてはいけないと…必要以上にかかわらないようにしてしまっていた。
本当は仲間として、友達として…あわよくばもっと、仲良くなりたかったのかもしれない。
正直な話、マリアには惹かれていたと思う。
けれども、ヘンリーとマリアは並んでいてもお似合いだと思ったし、事実、二人がゴールインしたことをポートセルミで知った。
リュカは素直にその現実を受け入れた。
受け入れたというよりもそうなるとわかっていたのである。
長い付き合いだからこそ誰よりヘンリーのことをわかっている自信があり、マリアのことばかり見ているのもよくわかっていた。
二人をあの大陸に残してよかった、とリュカは思う。
元々ヘンリーやマリアには旅をする理由がない。
マリアは旅をするような少女ではない。
誰かのために純粋な祈りをささげて笑顔で幸せな日々を送るのが、彼女にもっともふさわしい生活に違いない。
…リュカには旅をする理由がある。
生きる意味に近いほど、大切な、どうしても成し遂げなければいけないほどの理由がある。
サラボナに行って、少しでも天空の勇者に近づく情報が欲しい。
偶然にもルラフェン周辺で助けたこの…皮肉にもマリアと同じ修道院の出の少女が、サラボナにある天空の装備と深い関係にあった。
ひとつの手がかりを見つけたリュカにとって、まだ見ぬサラボナは希望の地であった。
と、このようなわけで、よく見ればフローラはマリアに引けを取らない美女であるのだが、彼女が宿の中でさえ分厚い旅装束を着込んで頭の上からすっぽりヴェールを被って顔しか出さず、手には物騒な棘のついたモーニングスターを持っているので、リュカの思考はサラボナにばかり向いているのであった。
スラリンはそんなリュカを残念そうに笑う。
スラリンにはフローラのあの顔だけで彼女のすばらしさがわかる(本人談)らしい、リュカは見る目がないだの、リュカはもったいないだの、先輩面してやかましく女を見る目について語りかけてくるのであった。
リュカたちはルラフェンを出発し、南下することにした。
サラボナまでの間には広い草原と険しい山脈が存在する。
山脈のほうはトンネルがあるので楽できるだろう。
フローラが言うにはポートセルミとサラボナをつなぐ街道沿いに行けば、トンネルの前に宿があるという。
そこまでは野宿になる…そう考えてルラフェンで長旅用に物資を調達しておいた。
時々現れるモンスターはリュカたちが攻撃し、フローラが回復と補助をする。
そういうサイクルがいつの間にか出来上がっていた。
この戦闘における安定感を得て改めて、このパーティには回復や補助を行う魔法使いが足りなかったのだなと感じた。
深刻な話か、マーリンの話す魔物界の事情など意味のある話ばかりをしてきたリュカたちであったが、フローラが加わってからは違った。
その話題から暗い雰囲気が漂っていることを察したフローラがあえて物語の話をはじめたのだ。
最初は天空の装備に関係がある天の神についての話、そしてサラボナに伝わる妖精の物語…
元々読書が好きだったというフローラは、子供の頃に知った童話から修道院で学んだ神話までいろいろな話を聞かせてくれた。
一見おとなしそうな姿からは想像も出来ない。
意外とお喋りでよく笑う。
「こうみえても私、昔は結構やんちゃだったんですのよ」
そう笑って話す彼女に、同じくお喋りなスラリンが尋ねた。
「修道院はまったく反対のとこじゃん!なんでフローラは修道院いってたの?」
「…父が、花嫁修業にと送ったのです」
彼女は苦笑した。
「ルドマンの娘ですもの、当然なのかもしれません…。
でも、私は、華やかなサラボナで親が選んだ人と結婚して裕福な生活を送るより、修道院で自分のことは自分でやって書を読みふけって月を見上げるほうが好きでしたわ」
寂しげな表情をしたが、彼女は続けた。
「花嫁修業に出たからこそ、こうやって世界を見て帰ることも出来るんだと思って、いま精一杯世界を目に焼き付けたい…」
彼女の腕にスラリンが頭を摺り寄せ、プックルは高い声で慰めるように鳴いた。
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