目を開くと、目の前にはこじんまりとした教会があった。
村に居るのはわかるのだけれども、火が灯されていても看板の文字はぼやけていて良く読めない。さっき寝たばかりだから夢なのだろうか。
星空と月の明かりを頼りに道のような道を歩いていくと、一軒の家の前に誰かが立っているのが見えた。
ターバンこそしていないけれど、黒い髪の少年だった。リュカだろうか、と私が近付くと彼はぱっと振り返った。
「…フローラ?」
「リュカ!」
リュカが近付いてくると無性に嬉しくなって、何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
「これは夢なのかな…」
「そうかもしれないわ、だって私こんなところ来たことない」
「そっか、ここね、ぼくの家なの」
家の窓にはカーテンが見えて中の様子はよくわからないが、リュカが少し開けたドアからは一階にぼんやりとした電気がついているのが見えた。
リュカはドアを閉めて私の手を取った。
「夜だからあれだけど、ちょっとぼくの村歩こ!」
「え、何も見えないのに」
「大丈夫いつも歩いてるから。それに夜の村なんて歩いたことないから歩いてみたいんだ」
リュカに手を引かれて暗がりを歩いていく。
「リュカは家でお父さんと二人?」
「ううん、サンチョっていうおじさんも一緒に住んでるんだ。サンチョの料理は本当においしいんだよ、どんな料理だって作れちゃうし。
あとね、ぼく猫を飼ってるんだ」
どんどん話していくリュカは昔船で見た静かさとは正反対だった。これは夢幻なのか、それともあの時は初めて会ったからだったのか。
とにかく楽しそうに話すリュカを見て安心した。
「プックルっていってね、これくらいの猫なの」
「大きい猫さんね!」
「大猫なんだよ。ちょっと虎に近いのかもね。でもいい子で、ぼくと一緒に居てくれるんだ。ぼくの友達」
宿屋の前の灯篭の明かりの下に座り込んでリュカの話を聞いた。
あれからサンタローズ着いたこと、洞窟を冒険したこと、レヌール城にお化け退治に行ったこと。妖精の村に春をもたらす手伝いをしたこと。
話をしていくうちに自分もすっかりリュカと一緒に冒険している気がして、嬉しくなってしまった。
「リュカったら、ほんとに冒険が好きなのね。お話もうまくて…いまの冒険を本にしたらみんなが読みたがるわ」
「本って、ぼく文字読めないし書けないんだけどね」
「あらそうなの?わたしも少ししか書けないんだけれど…」
リュカの意外な欠点を知って驚きつつも、自分にも手伝えることがあるんじゃないかと思った。
「そうだわ、いまのお話、きっと後でわたしが紙に書いて本にするわ」
「じゃあぼくはもっと冒険する!フローラが書き切れないくらいに」
「うふふ、楽しみね」
と、その時、宿屋の扉が開いた。
男が三人ほど話をしながら出てきたが、宿屋の目の前にいるのに自分たちには気付かないようだった。
「やっぱり夢なのかも」
リュカは自分の頬をぐにゃとつまんだ。
「フローラ、また会えるよね」
「こんな風に会えたんだもの、きっとまた会えるわ」
「父さんと明日ラインハットのお城に行くことになってるんだ」
ラインハット、その名前は聞いたことがあった。
父は言った、この世界に存在する城はラインハットとテルパドールとグランバニアだと。
グランバニアは山奥にあって父は行ったことがないらしいけれど、残りの二つには父の知り合いが沢山居るんだと言っていた。
「どうして?」
「わからないけど…」
「きっとまた冒険が待ってるのね」
不安そうなリュカは、私の言葉を聞いて、そうだねと笑った。
「色んなところを冒険して…いつかフローラの住んでる町にも行くよ」
「うん、待ってる」
ふと、周りが白くなってきた。あれと思っている間に目の前は真っ白になって、真っ暗になった。
「フローラ、朝ですよ」
お母さまの声で目を覚ますと、そこはなんの変わりもないサラボナの家だった。枕の隣を見たけれども黄色い花びらはなくて、全部夢だったんだと思った。
ベッドから降りて鏡を覗き込もうとすると、鏡の端っこに黄色い花びらが張り付いているのを見つけた。これを取ったらいけない気がする。
そう思って誰にもとられないように、黄色い花びらを隠すように鏡台の上にぬいぐるみを置いた。
これから毎晩あの夢が見られるのかな、そう期待していたけれど、世界に広がる黒い闇はゆっくりと動き出していて、私とリュカの夢が繋がることは長い間なかった。
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