リュカの手を引いて家に戻ると、玄関に入ってすぐ、父の大きな声が聞こえてきた。
「アンディ、何度言ったらわかるのかね。フローラを君のような一介の画家にはやれんのだよ!」
「それでもフローラと結婚したいんです!」
幼馴染のアンディは最近頻繁に我が家を訪れて、父に私との結婚を申し込んでいるらしかった。
私からしたらアンディは幼馴染であってそれ以上ではなかったのにと何か心苦しい。リュカが驚いたように肩をたたいてきた。
「フローラ、結婚するの?」
「いやだわ…そんなのお父さまが言ってるだけよ…」
アンディとのやり取りがループし始めた頃、そっと広間の扉を開いた。
「お父さま」
「フローラ!どこへいっておったのだ…ん?」
私が連れてきたのが男の人だとわかると、しかも手を引いてきたことでさらに父の顔が険しくなった。
「こちら、パパスさんの息子さん、リュカさんよ」
「パパス殿の!なんと!」
父の険しかった顔が急にぱっと明るくなった。
「客人だ!ああ、アンディには今日はお引取り願いなさい」
住み込みのお手伝いさんたちがアンディの背中を押して玄関へと押し出していった。
それを何事かと不思議そうな目で見送ったリュカは、改めて父に向き合って頭を下げた。
「ルドマンさん…お久しぶりです」
「道中の話はあちらでたっぷりと聞こうぞ、さあさあ」
父に案内されて豪奢なテーブルに落ち着かない様子で腰を下ろしたリュカに、父は明るく話しかける。
「パパス殿はお元気かね?」
「それが…」
パパスさんがラインハットでのヘンリー王子誘拐騒動に巻き込まれてゲマという男に殺されたこと、神殿の建設に奴隷として10年間働かされていたことなどを話し終わったとき、父はハンカチをしっかり濡らしてため息をついた。
「連絡の取れぬ間にそんなことがあったとは…!さぞお辛かっただろうに。
パパス殿は話の分かる立派な方じゃった、うちにはいつ来ていただいても構わん、行く先があるならば援助しよう」
温かいティーカップを手に、ありがとうございますとリュカが言った時、まだ玄関の方から僕は諦めないぞなんていう叫び声が聞こえてきた。
「あの…さっきの人はなんだったんですか?」
リュカが静かに切り出した質問に、胸がぎゅっと締め付けられた。
「フローラも年頃の娘だ、強い男に嫁がせたいと思うのが親心というものだろう?
あのアンディというのはフローラの幼馴染じゃが、とてもフローラを守りぬける強さがあるとは思えん」
「お父さま…そのお話は」
「フローラ、分かってくれ…」
「ですが、この間だっていらっしゃった旅の方に2つのリングを取って来いだなんて無茶なこと…」
お手伝いさんたちを振り払って広間に駆け込んだアンディが凄い形相でこちらを見据えた。
「それをとってきたら僕を認めてくれますか」
「…そうなれば、君の強さは認めよう。しかし、君にできるとは思わん」
「お父さま…!」
そんなことを言ったら煽るだけなのに、と双方の顔色を伺う。
「フローラ、僕は必ずリングを取ってくる。
リングを取ってきた者にフローラと結婚する権利があるならそうする!」
「アンディ!」
言い切ってアンディが勢い良く飛び出して行った。
「お父さま…っ!もう私は、私のせいで人が無茶なことをするのは耐えられません!」
「だが2つのリングを揃えるほどの者でなければおまえを任せられん…」
「ああもう、そんなリング、私が揃えてしまえればいいのに!そうしたら私のために人が悩むことなんて」
「フローラ、おまえまで無茶なことを言うでない」
聞いてられない、そう思って立ち上がって自室のほうに走り出した。
「フローラ!」
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