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天球ギャラリー

小説、イラストの保存庫です。
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agony2

その晩、懐かしい我が家のベッドで横になっているのにどうもなかなか眠れなかった。
寝返りを打つと、母がこちらを見ていて目が合う。

「ねれないの?」
「かあさんがさっき言ってたこと、思い出しちゃって」
目線をはずして、布団を持ち上げる。
「ふと考えたりとか、思い出したりとか…目で追っちゃうとか」
「じゃあ、手を繋いだらいやかしら、抱きしめられたら?キスされたら」

イザが自分にそんなことするなんて、と、ミレーユは軽く想像して恥ずかしくなって手で顔を覆った。

「ミレーユ」
母が優しく声をかける。
「恥ずかしいことじゃないわ。もっと堂々としなさい、確かめてみればいいのよ」


市場の路地を歩きながら、意識は右腕にいく。
シェリスタに被せられそうになったヴェールの代わりにイザに同行してもらうことにしたが、腕を組んで歩く必要まではなかった。

(ちょっと、やってみようと思った)

みんな仲間は寝ているし、シェリスタが見ていると思ったら妙にやってやろうという気になったのだ。

(イザと腕組んでる、あたし)

イザの腕に自分の腕を絡めて、細い路地を通る。
自分のほうに町の人の視線が集まっているのがわかるけれども、ガンディーノの城にいくことになった昔のあの時とは違う。

(わたしのことをみんな見ているけど、いまはひとりじゃないわ)

「ガンディーノの町も変わったわね…」
イザがこちらを向く。
「色々町を見てきたけど、こんなに組が幅をきかせてる町もないな」
「昔はもっとだったのよ、町のあちこちにギンドロ組が立ってたの」

たまたま立っていたギンドロ組の組員と目が合うと、あっちが慌てて頭を下げる。

「怖かったわ、でもガンディーノって近くに全然町とかないでしょ。
ここは閉鎖的なのよね。ギンドロ組に抑えられてたころは、彼らの要求が全てだったわ。
外に出て、広い世界に出て、気づく事なんてたくさんあった…」
「世界は広いよ」
イザが苦笑する。
「こんだけ回って、もう一人の俺が見つからないんだから」
「そうね…、イザはまだライフコッドのイザだものね」
「ライフコッドだってあるかわからないよ」
「こっちのレイドックからは繋がってないのが不思議ね、あっちはあっちでレイドックとアモールが陸路で繋がってないし」

ぎゅっと、イザの手を握った。

「大丈夫よ、ガンディーノに一緒にきてくれたんだもの、今度はわたしがライフコッドまでついていくわ」
「ありがと、助かるよ」

太陽のような暖かいイザの微笑みが、握った手が、ミレーユの心を安心させる。
肩に頭を預けたくなる。クリアベールで抱き上げられたことを思い出す。

(ああ、わたしはこの人が好きなんだわ…)

ガンディーノ城を眺めるイザの横顔を見つめながら、この想いは心に秘めておこうとミレーユは誓うのだった。
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妖精の鏡14

ドレスに着替える中、お手伝いさんと一緒に手伝ってくれたビアンカさんが苦笑した。

「大富豪の娘なのに、あんな格好して火山や滝に行っちゃうなんてほんと凄いわね」
「…危険な所に誰かに行ってもらって自分は待ってるだけなんて嫌だったんです」

リュカがヴェールを持ち帰るまでの間、ビアンカさんとお茶しながら色んなことを話した。

「リュカがフローラさんを気に入ったの分かる気がするわ。
なんかほっとけないもの、私もなんか妹が出来たみたいな感じ。心配になっちゃう」
「むしろ心配はかけたくないわ」
「あたしたちは心配しちゃうけど、実際のところはまったくぬかりないっていうのが…」

くすくすとビアンカさんが笑った。

「フローラさんって面白い人ね、こんな出会いだったけど今からでもお友達になれるかしら?」
「ビアンカさんから宿屋の秘策を教わってないのにどうして離れられるでしょう」
「うふふ、あたしがお嫁さんに欲しいくらいだわ。リュカにもったいなくて」


結婚式にはラインハットから来たヘンリー王子とマリアさんも参列して、賑やかな式になった。
初めて話した海で、初めて話したのも船の上で、太陽と海と空と風に見守られて式を挙げるのは不思議な気分で嬉しかった。

ビアンカさんが帰る時、こう言った。

「ありがとねフローラさん、あなたがまっすぐで優しくて…リュカの側にいるのが凄くお似合いだと思って納得できて、…なんていっていいかわかんない」

私も心にひっかかるものがないわけじゃなかった。

「私たち、いい友達になれるわ…」


「ねえ、リュカこれを読んでみて?」

翌朝、鍵を開けて取り出したのはリュカのために書いたリュカの冒険の数々。

「こんなに読みきれないね。ほんとにかいててくれたんだ」
「ええ、だって約束したでしょう?」

リュカの腕が私を引き寄せて、頬に軽く唇が触れた。

「フローラ、愛してる」
「私も愛してるわ…」


本のページは日に日に増えていく。
リュカの冒険が続く限り、側でそれを本にすると約束したのだから。


(終)

妖精の鏡13

先に船に向かった私から船員さんには話を通しておいて、滝の洞窟目指してリュカとビアンカさんと三人で冒険に出かけることになった。
ビアンカさんは身軽な格好でいばらのムチと炎の呪文やマヌーサを使いこなすから内心うらやましくてしょうがなかった。
けれどあくまで今は修道院帰りのサラボナのシスターを演じ抜こうと、笑顔を絶やすことは無かった。

滝の洞窟がこのローブやフードに適さない場所だと気付くのに時間はかからなかった。
気は進まなかったが仕方なくフードを船に預け、ベルトを調節してローブの裾を持ち上げた。
リュカと冒険するのは久しぶりねとビアンカさんが楽しそうにリュカに話しかけるのを二歩くらい下がって見ながら後をついていき、必要ならベホイミをかけるというスタイルを貫くのは辛いものがあった…
ただ、火山のように凶悪なモンスターは居なくて、滝の裏に隠された水のリングを手に入れるとすぐに船に戻ったからさほど時間はかからなかった。
けれども、唯一心にひっかかったのは、ビアンカさんが自分もサラボナまでついていくと言ったことだった。

サラボナに戻る道中船の甲板でぼーっと海を見ていると、ビアンカさんが声をかけてきた。

「リュカったら、10年以上も見ないうちにしっかりしちゃって。昔はぜんぜん頼りなかったのに」

ビアンカさんの話を聞けば聞くほど、ビアンカさんはリュカのことを好いている気がしてならなかった。

「ビアンカさんは、リュカさんのことがお好きなのですか?」
「そうかもしれないわね…」

遠くを見ながらリュカのことを考えるビアンカさんの横顔が、私には眩しかった。
同時に、サラボナに着いたらどうしようという気持ちでいっぱいだった。


心苦しい気持ちで一杯のまま、家の門をくぐった。

「リュカ!フローラ!帰ったか!」

父が安心しきった顔で豪快に出迎えた。

「水のリングは?おお、さすがわしの見込んだ男じゃ!フローラとの結婚を認めよう。いやあめでたいめでたい」
「え?」

ビアンカさんの驚いた声が広間に響いた。

「おや、そちらの女性は…」
「幼馴染のビアンカで、村の水門を管理していてリング探しを手伝ってくれたんです」
「リュカ…どういうこと?」

リュカが何かを言うより先に気付いたら頭を下げていた。

「ごめんなさい、私は今はシスターではないんです!」
「フローラ、ちょっと」

リュカが私の肩を叩いたけれど、頭を上げてどういう顔をしたらいいかわからなくて、頭をあげられなかった。

「フローラはルドマンさんの娘で、僕はフローラと結婚するために2つのリングを探しに行ってたんだ。
正しいこと言えなくてごめん…」

ビアンカさんは突然のことにショックを受けているから何も言えないんだと思う。
私もリュカも気まずくて何も言えなくなってしまった。

「ビアンカさんもよければ結婚式だけでも出席して頂けないかね?泊るところはこちらで用意しよう」

父の一言でその場はおさまったものの、私たちの間にはなんとも言えない空気が流れていた。

妖精の鏡12

水門を開けてもらいに山奥にある村に歩みを進めた。
リュカに比べて私の格好が目立つことが困りものだったから、修道院に居たときのような服を船員さんに提供してもらった。
絹のローブに毛皮のマント、また毛皮のフードを着けて、武器だけが妙に強そうだけれどもこれで大分旅人に見えるのではないだろうか。

一番奥の家に着いて戸を叩くと、スタイルのいい金髪の女性が顔を出した。

「はーい、なんでしょう」
「あの、サラボナから来たのですが水門を開けていただきたくて…」

女性が、あ、とリュカを見て驚いた顔をした。

「あなた…リュカ、リュカじゃない?!あたしよ、ビアンカ!」
「ビアンカ?!」

聞いたことがあった。
プックルを助けるためにお化け退治に乗り込んだ時一緒に行った幼馴染の少女の名前がビアンカ、聞いた外見も金髪にぱっちりした青い目だったから、おそらくこの目の前に立っている人がビアンカさんなのだ…。

「ほんっと懐かしい!ちょっとお茶でもどう?」


木で出来た家は温かく、手入れが行き届いていて綺麗だった。
リュカはビアンカさんにパパスさんのこと、ラインハットのこと、サンタローズのことを話した後、だいぶ間を省略して水のリングを取りに行く所だとだけ言った。

「水のリング?確かにこの村にも伝説はあるけどどうしてまたそんなものを…」
「サラボナのルドマンさんが必要としててね。
ルドマンさんは父さんの探してた天空の盾を持っているんだ」

幼馴染の女性の前で、私を婚約者だなんて紹介できないのかもしれない。
そう思った私は自然と口を開いていた。

「私はシスターのフローラと申します、ルドマン氏の依頼をお手伝いさせて頂いてますの。
この辺りは修道院から帰る時に通りましたしお役に立てるかと思って」

リュカの困ったような目が気になったけれど、せめて戦いではない所では役に立ちたかった。
幸いビアンカが何か気付くこともなく、すすめられるままに一泊して出かけることになった。

妖精の鏡11

あれからサラボナに戻った私はドキドキしすぎてリュカの顔を見ることが出来なかった。
溶岩の海でプロポーズされる女なんて、ポピーが聞いたらどう思うのだろう。
リュカに手を引かれてサラボナの道を歩くけれども、溶岩のところでフードが焦げて使い物にならなくなったから顔は隠せない。

「町の人が見てるわ…」
「そりゃあ、ルドマン家の令嬢がそんな格好で歩いてるからだよ」
「…フードをとらせたのはあなたじゃない」
「フローラは僕のものだって言って歩いてる気になるね」
「リュカのいじわる!」

家につくと、まずお手伝いさんたちに囲まれた。

「お嬢様!そんな格好でどこへいってらしたのですか!」
「お父さまを呼んで!炎のリングはここにあるわ」
「炎のリングですって?!」

お手伝いさんたちがバタバタと走り始めた。
私やリュカが広間に入ると、父が二階から転げそうな勢いで駆け下りてきた。

「フローラ!どこへ行って居ったのだ!その格好はっ」
「火山に行ってきましたわ、アンディを連れ戻しに、それから…」

リュカが袋の中から炎のリングを取り出して父に手渡した。

「ルドマンさん、炎のリングを取ってきました。僕は水のリングも取りに行くつもりです」
「は、…なぬ?!」
「まあ、もう行くつもりなの?私も…」
「ま、待った!何の話だ!一から説明せんかっ」


父は溶岩原人を倒してリングを手に入れたところまで聞いて、気が良くなったようだった。
私が無茶して深夜に抜け出して火山に出かけようとしたこともリュカの武勇伝で少し流れたと信じたい。

「このリングは、僕とフローラで手に入れました。
フローラは回復呪文が本当に上手で、何度救われたかわかりません。
だからフローラの話も聞いてあげて欲しいんです」

私が回復呪文を使えること自体、父は知らなかっただろう。

「私、2つのリングを私が手に入れられたら、私のために危険なことをする人もいなくなると思って…」
「ルドマンさん、フローラの言うこともあると思います。
だから水のリングを取りに行きたい、けど、それ以上に僕は…。
水のリングを手に入れたら僕がフローラに結婚を申し込んでもいいのでしょうか?」

遠まわしな話で父もよくわからない顔をしていたが、最後の部分を聞いた父は徐々に理解できてきたようだった。
聞いているだけで顔が赤くなりそうで二人を見ていられなかった。

「な!…そうか、そうかそうか!!それ以上に嬉しいことはない!
そういうことなら船を用意しよう。
水のリングはサラボナに流れる川の上流の湖、その北の滝の中にあるといわれているのだ。
いやあ、めでたい、めでたいぞ!
わしはパパス殿のような勇敢な男に婿になってもらいたいと思っておった。
いまの君はパパス殿そっくり、なんと凛々しいことか」


リュカが帰ってくるまでサラボナで大人しく待っていたらどうかという父の提案はリュカがなんとか説得してくれたらしかった。
父が用意したいかずちの杖を着けて、リュカの横に並んだ。

「あなたと冒険できて嬉しい…」
「フローラが居てくれたら、僕も思う存分無茶できるね」

ふふっとお互い笑って手を取り合った。

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