「お嬢さま!どうなすったんです、その格好は!
シスターまでそんな、一体どうしちゃったってーんだ」
「色々あって…シスターをお願いします、それから、お医者様を…」
「ああ、ああ、わかった、お疲れでしょうからまずあちらへ」
宿の入り口で主人に迎えられた一行は、宿の主人にシスターを預けて食堂へ向かった。
流石にスライムやキラーパンサーは町に連れ込めないらしく、
リュカという若い男、スライムに乗っていたピエールという騎士、マーリンという老人の三人と少女は食堂の席に着いた。
明かりの下で見るとリュカは意外と若かった。
体つきこそ筋肉が引き締まっていて旅慣れているようであったが、顔つきは幼く、話を聞くとまだ16歳なのだと言う。
少女はこのたくましい男…いや、少年、青年、どう表現して良いかわからないがこの者が自分より二つ年下であることに驚いていた。
あまり身の上話においては口を開きたがらないリュカに代わって、律儀なピエールとお喋りなマーリンが旅の経緯を教えてくれた。
ラインハットのヘンリー王子と共に光の教団から脱出し、修道院に流れ着いたこと。
ラインハットを偽王妃の支配下から解放したこと。
この世界のどこかに居るであろう天空の勇者を探していること。
あまりに規模の大きな話に、少女は物語を聞いているような気分になった。
彼らは最後に、天空の勇者だけが見につけることが出来るという四つの武具のうちの一つ、天空の盾がサラボナにあると聞いて、
なにか勇者を見つける手がかりを聞けないかと思っていたところだ、と言った。
天空の盾に用があると聞いてしまっては、少女は黙っているわけにはいかなかった。
何を隠そう、天空の盾は少女の父の所有物であり、家宝なのであった。
少女は重い口を開いた。
「私は、サラボナの商人ルドマンの娘、フローラと申します。天空の盾を所有しているのは、私の父ですわ」
「なんと!」
三人は顔を見合わせた。
リュカが尋ねる。
「ルドマンさんは、大昔天空の勇者と共に戦った武器商人トルネコの子孫だってポートセルミで聞いたんです」
「小さい頃そう習った気もいたします」
少女…フローラのためらいがちな返事に、三人は大いに喜んだ。
「私は修道院に修行に行っておりました。
本当はもう少し早く帰るはずだったのですけど、ラインハットの命令で港が封鎖されて帰れなかったのです。
港を解放してくださってありがとうございます。
それに、先程私たちを救っていただいて…。本当にいくらお礼を言っても足りませんわ」
「でもあんなに魔物が沢山居て何もしていない人間を襲うなんて、ちょっとおかしくないか」
リュカは首をかしげる。
「南のカボチ村もそうだし、特にこっちの大陸では魔物が凶暴化してるように感じるんだ」
「私もそう感じます。オラクルベリーの周りはこんなに危なくなかったですもの」
「やっぱり早く天空の勇者を探して、光の教団を…っ」
リュカが声を荒げたのを、マーリンがなだめる。
「まぁまぁ焦ってもしょうがあるまい、話を聞くところでは、勇者様であったとしても天空の装備が揃わなくてはゲマにかなうかもわからん。
わしらは、勇者様にいつ会っても良いように装備を探しておくんじゃ」
「…父なら何か知ってるかもしれませんわ。
伝説の勇者のこと、装備のこと…。
父も若い頃、旅が好きで、あちこち回っていたらしいですし、みなさまのお役に立てると思います」
「ありがとう、フローラさん」
「いいえ…あなたがたは命の恩人ですもの、今度は私がお礼をさせていただく番です」
フローラは続ける。
「あの、いつまでルラフェンに滞在なさいますか…?
お話を聞いたからには、私もサラボナまで一緒にお供します。
あなたたちを私から父に紹介したいのです」
医者の話によれば、シスターの傷は表面的にはよくふさがっているが、
老齢の上、旅人と違って怪我をすることに慣れていない体には養生が必要だということであったので、シスターにはルラフェンに残ってもらうことになった。
フローラはルラフェンにあるサラボナとの間の連絡所…ルドマンが設置した、要するに鳥で書簡を運ぶだけの簡単な場所だが、
そこへ行き、流麗な字でしたためた手紙をサラボナに送るように頼んだ。
(私が旅の方たちと…それも男性やモンスターと一緒に旅をするなんて、お父さまはどう思うかしら)
どう思うか、などと様子を伺う余裕は無かった。
外見(ボロボロの旅装束のことだ…)はともあれ、リュカの瞳に嘘はなさそうだということ、
そしてあれだけの傭兵を抱えた隊商ですらひとたまりもなかったモンスターたちをこの人たちは倒すことができる。
それが、フローラが彼らと一緒に行けばサラボナに帰ることができると信じる理由だった。
「お待たせしました。リュカさん、さあ参りましょう」
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