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天球ギャラリー

小説、イラストの保存庫です。
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妖精の鏡13

先に船に向かった私から船員さんには話を通しておいて、滝の洞窟目指してリュカとビアンカさんと三人で冒険に出かけることになった。
ビアンカさんは身軽な格好でいばらのムチと炎の呪文やマヌーサを使いこなすから内心うらやましくてしょうがなかった。
けれどあくまで今は修道院帰りのサラボナのシスターを演じ抜こうと、笑顔を絶やすことは無かった。

滝の洞窟がこのローブやフードに適さない場所だと気付くのに時間はかからなかった。
気は進まなかったが仕方なくフードを船に預け、ベルトを調節してローブの裾を持ち上げた。
リュカと冒険するのは久しぶりねとビアンカさんが楽しそうにリュカに話しかけるのを二歩くらい下がって見ながら後をついていき、必要ならベホイミをかけるというスタイルを貫くのは辛いものがあった…
ただ、火山のように凶悪なモンスターは居なくて、滝の裏に隠された水のリングを手に入れるとすぐに船に戻ったからさほど時間はかからなかった。
けれども、唯一心にひっかかったのは、ビアンカさんが自分もサラボナまでついていくと言ったことだった。

サラボナに戻る道中船の甲板でぼーっと海を見ていると、ビアンカさんが声をかけてきた。

「リュカったら、10年以上も見ないうちにしっかりしちゃって。昔はぜんぜん頼りなかったのに」

ビアンカさんの話を聞けば聞くほど、ビアンカさんはリュカのことを好いている気がしてならなかった。

「ビアンカさんは、リュカさんのことがお好きなのですか?」
「そうかもしれないわね…」

遠くを見ながらリュカのことを考えるビアンカさんの横顔が、私には眩しかった。
同時に、サラボナに着いたらどうしようという気持ちでいっぱいだった。


心苦しい気持ちで一杯のまま、家の門をくぐった。

「リュカ!フローラ!帰ったか!」

父が安心しきった顔で豪快に出迎えた。

「水のリングは?おお、さすがわしの見込んだ男じゃ!フローラとの結婚を認めよう。いやあめでたいめでたい」
「え?」

ビアンカさんの驚いた声が広間に響いた。

「おや、そちらの女性は…」
「幼馴染のビアンカで、村の水門を管理していてリング探しを手伝ってくれたんです」
「リュカ…どういうこと?」

リュカが何かを言うより先に気付いたら頭を下げていた。

「ごめんなさい、私は今はシスターではないんです!」
「フローラ、ちょっと」

リュカが私の肩を叩いたけれど、頭を上げてどういう顔をしたらいいかわからなくて、頭をあげられなかった。

「フローラはルドマンさんの娘で、僕はフローラと結婚するために2つのリングを探しに行ってたんだ。
正しいこと言えなくてごめん…」

ビアンカさんは突然のことにショックを受けているから何も言えないんだと思う。
私もリュカも気まずくて何も言えなくなってしまった。

「ビアンカさんもよければ結婚式だけでも出席して頂けないかね?泊るところはこちらで用意しよう」

父の一言でその場はおさまったものの、私たちの間にはなんとも言えない空気が流れていた。
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妖精の鏡12

水門を開けてもらいに山奥にある村に歩みを進めた。
リュカに比べて私の格好が目立つことが困りものだったから、修道院に居たときのような服を船員さんに提供してもらった。
絹のローブに毛皮のマント、また毛皮のフードを着けて、武器だけが妙に強そうだけれどもこれで大分旅人に見えるのではないだろうか。

一番奥の家に着いて戸を叩くと、スタイルのいい金髪の女性が顔を出した。

「はーい、なんでしょう」
「あの、サラボナから来たのですが水門を開けていただきたくて…」

女性が、あ、とリュカを見て驚いた顔をした。

「あなた…リュカ、リュカじゃない?!あたしよ、ビアンカ!」
「ビアンカ?!」

聞いたことがあった。
プックルを助けるためにお化け退治に乗り込んだ時一緒に行った幼馴染の少女の名前がビアンカ、聞いた外見も金髪にぱっちりした青い目だったから、おそらくこの目の前に立っている人がビアンカさんなのだ…。

「ほんっと懐かしい!ちょっとお茶でもどう?」


木で出来た家は温かく、手入れが行き届いていて綺麗だった。
リュカはビアンカさんにパパスさんのこと、ラインハットのこと、サンタローズのことを話した後、だいぶ間を省略して水のリングを取りに行く所だとだけ言った。

「水のリング?確かにこの村にも伝説はあるけどどうしてまたそんなものを…」
「サラボナのルドマンさんが必要としててね。
ルドマンさんは父さんの探してた天空の盾を持っているんだ」

幼馴染の女性の前で、私を婚約者だなんて紹介できないのかもしれない。
そう思った私は自然と口を開いていた。

「私はシスターのフローラと申します、ルドマン氏の依頼をお手伝いさせて頂いてますの。
この辺りは修道院から帰る時に通りましたしお役に立てるかと思って」

リュカの困ったような目が気になったけれど、せめて戦いではない所では役に立ちたかった。
幸いビアンカが何か気付くこともなく、すすめられるままに一泊して出かけることになった。

妖精の鏡11

あれからサラボナに戻った私はドキドキしすぎてリュカの顔を見ることが出来なかった。
溶岩の海でプロポーズされる女なんて、ポピーが聞いたらどう思うのだろう。
リュカに手を引かれてサラボナの道を歩くけれども、溶岩のところでフードが焦げて使い物にならなくなったから顔は隠せない。

「町の人が見てるわ…」
「そりゃあ、ルドマン家の令嬢がそんな格好で歩いてるからだよ」
「…フードをとらせたのはあなたじゃない」
「フローラは僕のものだって言って歩いてる気になるね」
「リュカのいじわる!」

家につくと、まずお手伝いさんたちに囲まれた。

「お嬢様!そんな格好でどこへいってらしたのですか!」
「お父さまを呼んで!炎のリングはここにあるわ」
「炎のリングですって?!」

お手伝いさんたちがバタバタと走り始めた。
私やリュカが広間に入ると、父が二階から転げそうな勢いで駆け下りてきた。

「フローラ!どこへ行って居ったのだ!その格好はっ」
「火山に行ってきましたわ、アンディを連れ戻しに、それから…」

リュカが袋の中から炎のリングを取り出して父に手渡した。

「ルドマンさん、炎のリングを取ってきました。僕は水のリングも取りに行くつもりです」
「は、…なぬ?!」
「まあ、もう行くつもりなの?私も…」
「ま、待った!何の話だ!一から説明せんかっ」


父は溶岩原人を倒してリングを手に入れたところまで聞いて、気が良くなったようだった。
私が無茶して深夜に抜け出して火山に出かけようとしたこともリュカの武勇伝で少し流れたと信じたい。

「このリングは、僕とフローラで手に入れました。
フローラは回復呪文が本当に上手で、何度救われたかわかりません。
だからフローラの話も聞いてあげて欲しいんです」

私が回復呪文を使えること自体、父は知らなかっただろう。

「私、2つのリングを私が手に入れられたら、私のために危険なことをする人もいなくなると思って…」
「ルドマンさん、フローラの言うこともあると思います。
だから水のリングを取りに行きたい、けど、それ以上に僕は…。
水のリングを手に入れたら僕がフローラに結婚を申し込んでもいいのでしょうか?」

遠まわしな話で父もよくわからない顔をしていたが、最後の部分を聞いた父は徐々に理解できてきたようだった。
聞いているだけで顔が赤くなりそうで二人を見ていられなかった。

「な!…そうか、そうかそうか!!それ以上に嬉しいことはない!
そういうことなら船を用意しよう。
水のリングはサラボナに流れる川の上流の湖、その北の滝の中にあるといわれているのだ。
いやあ、めでたい、めでたいぞ!
わしはパパス殿のような勇敢な男に婿になってもらいたいと思っておった。
いまの君はパパス殿そっくり、なんと凛々しいことか」


リュカが帰ってくるまでサラボナで大人しく待っていたらどうかという父の提案はリュカがなんとか説得してくれたらしかった。
父が用意したいかずちの杖を着けて、リュカの横に並んだ。

「あなたと冒険できて嬉しい…」
「フローラが居てくれたら、僕も思う存分無茶できるね」

ふふっとお互い笑って手を取り合った。

妖精の鏡10

「麓にはいないみたいねぇ」

この辺出身で詳しいというメッキーがぐるっと回って偵察してきて首をかしげた。

「まさか火山の中かも…」
「メッキー、案内してくれ。プックルは一番最後でフローラの背中を守って」
「グルル」

プックルが私の足に頭を擦り付けてきた。
ほんの少しの間なのに大きな動物に懐かれるというのは初めてで不思議な気持ちになった。

毛皮のフードはやめたほうが良かったかなと汗を拭きながら思った頃、ランスアーミーと炎の戦士に囲まれた人影を見つけた。

「アンディ!」

私の叫び声を聞いたメッキーが冷たい息を吐いて敵を振り向かせると、リュカが駆け出すと同時に私の後ろにいたプックルがそれを抜かすように飛び出してランスアーミーを押し倒した。

「バギマ!」

炎の戦士の勢いが弱まった所に剣と牙が襲い掛かって止めを刺した。
ひどく焼け焦げたアンディにリュカがベホイミを唱えると、少し痛みがひいたのか、アンディが熱にうなされながら私の名前を呼んでいるのがはっきりとわかった。

「…アンディ」
「プックル、メッキー。フローラと一緒にルーラでサラボナに戻って彼を届けてくれ」
「リュカは!」
「僕はリングをとってくる」
「私も行かせて」
「でも」

リュカの気遣うような目がこちらを見ている。

「荷物になるかもしれない、けど、回復くらいはできるわ、行きたいの」

自分に自信はない。修道院にいたにも関わらず本と神と向き合う日々で、目の前の人を助ける魔法はベホイミしか得ていなかった。

「荷物だなんて思ってないよ。さ、一緒に行こう」


二匹にアンディを任せて歩き始めてしばらくすると、リュカが言った。

「アンディを助けたら帰るっていうのが本来の目的だったから、フローラも帰るかなと思ったんだけど…」
「あなたが炎のリング取りに行くなんて言わなければ帰っていたわ」

どうもリュカ相手だと昔を思い出して、子供のように張り合ってしまう。

「なんで取りに行くなんて言い出したの?」
リュカが言うのを躊躇するような顔で歩みを速めた。
「あれを倒せたら、話す」
と言って目の前に現れた溶岩のような奇妙なモンスターに駆け出していった。

3匹の溶岩原人との戦いは激しかった。
スカラやバギマを使いこなすリュカでも苦戦して、私は遠くから回復することしかできないしで本当にどうなることかと思いもした。
けれど、幼い頃から書いていたリュカの冒険の記録でリュカは負けなしだった。
私が聞いた限りではリュカが負けたのはゲマただ一人だけだった。


溶岩の海が静かになって、岩場にきらりと光るものを見つけた。
その岩場までの溶岩の海には、先ほどの魔物の死体が冷えて固まって出来た土の橋のようなもので渡しが架かっていて、足を乗せても平気そうだった。
リュカに手を引かれてのぼり、岩場にしゃがんで光るものを手にした。

「これが炎のリング?」

受け取って手のひらで転がしてみた。
紅い水晶に金の輪がついた確かに綺麗な指輪だった。
この溶岩の岩場にあったにも関わらず傷一つなくて、魔法でもかかっているのだろうかと思わされた。
ひょいと私の手の中からリュカの指がリングを持ち上げ、両手で私の手を掴んだ。

「フローラが許してくれるなら」
急に話し出したリュカの目はいつになく真剣だった。
「僕はこのリングを持って…ルドマンさんにフローラが欲しいと言いたい」
「えっ…?」
「だめ?」
「え、ええっと、その…リュカが、私を?」

暑さでなのか恥ずかしさでなのか顔が熱くなるのを感じた。
彼は言い辛いのか少し目を泳がせて、

「他の男のために無茶してほしくないんだ、無茶するなといってもきみはなんでもしようとする人だから、その、僕ならきみが無茶しても側に居て守ってあげられるから…僕も無茶ってヘンリーによく言われるし。
きみは優しくて、人のために無茶なことしようとして……うん、それでいて案外用意周到な所がほっとけないと思った」

告白されているはずなのにおかしくてつい笑ってしまった。

「真面目に言ってるのに」
「ありがとう、私も、何かするならリュカのためがいいわ」

妖精の鏡9

実は家の廊下には非常用の武器が備え付けてあって、モーニングスターという。
杖に鉄球が鎖で結び付けられているもので、近付かずに相手を殴り倒せるものだ。
これをそっと手にとって、修道院から帰ってくる時に来ていたみかわしの服を身に付けて、同じく毛皮のフードとうろこの盾を持って夜中に忍び足でサラボナの門をくぐった。

「フローラ」
「きゃ!」

いきなり掛けられた声に驚いてモーニングスターを振り上げると、降参したように手を上げたリュカが立っていた。

「きみは…ほんと、見かけによらず無謀な人だなぁ…」
「炎のリングをとりにいくだなんて、行って見なければその辛さはわからないわ。
お父さまは簡単に言うけど、普通の暮らしをしてる人を巻き込みたくなんてないの」
「そういう君だってなにその重装備」
「私だってアンディにとりにいけるとは思ってないわ、せめて麓まで行って追いついて止められないかしらって」
「昔から困ったお嬢様だね、フローラは…」

リュカはあげていた手を下げて、差し伸べてきた。

「僕がついていくよ。フローラにはお世話になったから…だから僕がフローラの剣にも盾にもなろうじゃない」
「あなたも昔からその言い方変わってないわ」

手を重ねてがっちりと握手した。

「よろしくね、リュカ」


馬車は置いてきたというリュカについてきたのはキラーパンサーとキメラだけで、リュカはキラーパンサーのことを昔はなした大猫だと笑った。

「猫にしては大きいなと思ったんだけど、やっぱりモンスターだったよ」

あははと笑うリュカに釣られて笑いながらモンスターたちを撫でた。

「プックルちゃんもメッキーも澄んだ目をしてるのね。リュカのこと好き?」
「グルル!」
「好きだからついてきたのよ~?」
メッキーが耳元で囁いてきた。
「リュカだって、あなたのこと好きだからついてきたのかもよ?」
「!!」
思わず耳まで赤くなってしまって、仕返しにイタズラっ子メッキーの尻尾をぎゅっと掴んだ。


リュカは本当に強くて、パパスさんの形見だという剣で敵を蹴散らしていった。
私が回復魔法を使えるということを知ると、メッキーも回復をやめてブーメランを器用に振るうようになった。
夜が明ける頃、「実はルドマンさんからも頼まれて」とリュカがつぶやいた。
頼まれていたことを言わないで居るのには罪悪感があったらしい。

「ルドマンさんはアンディはどうでもいいにしても、フローラが無茶なことをしなければいいけれどもって言ってた。
念のために街の外で待ってたけど、まさかそんながっちり装備してくるとは思わなかったよ…」
「用意は入念に、ですわ」
「そうだけど…」

ねえ、と声をかけてくる。

「アンディのこと好きってわけじゃあないの?」
「アンディはただの幼馴染よ…。
あの人にドキドキしたこととか無かったわ、ほんとに友達なの」
「好きで、無茶してほしくないのかと一瞬考えたよ」
「いやね、みんなそうやって疑うのよ」
「そっか」

リュカはそれ以降何も言わなかったけれど、何を考えていたのだろう。
それを当てようとあれこれ考えるけれどわかるはずもなかった。

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