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ほんねリップ

45万HITキリリクりんご茶さまにささげます。
「主ミレが喧嘩したら」というリクを頂きました。
遅くなってすみません!




緑豊かな森に囲まれた古めかしい館――グランマーズの館の前、ミレーユは一人頭を抱えていた。
切れ長の美しい目元には涙がたまっており、彼女がおなじく長い睫毛をぱちぱちとさせるたび、雫が陶器のように白い頬を伝って流れ落ちていく。

「無理よ…私には無理…。こうするしかなかったの…」

深いため息と共にミレーユは頭を抱えた。

真っ直ぐ、不器用だが熱い眼差しを向けられるとどうしても逃げてしまう。
こんなに暗い過去があって、こんなに体を張ったり見栄を張ったり、くだらないプライドを守ったりしてきた自分…
そんな自分には彼の姿は美しすぎた。

自分が彼に惹かれている…彼も自分を想ってくれている、はっと気付いたときは嬉しかったけれども、それは認めてはいけない事実で、彼の想いを受け入れることは彼の未来も暗くすることだとミレーユは考えていた。

「だめなの、私を…お願いだから私にかまわないで…つらい…」

ミレーユの苦しむ声は森のざわめきに飲み込まれた。



数分前のこと…進み先に困ったイザ達一行はグランマーズの館を訪れ、次の目的地を占ってもらいに来ていた。

ライフコッドで本体を取り戻したイザ、カルベローナで記憶を取り戻したバーバラ…
アモスやモンスターたちをロンガデセオに置いてきてしまったが、残っている5人の実力は彼らが居たときよりもはるかに強くなっている。

次の目的地はおそらく伝説の武具のひとつを探す場所になるだろう。
この先はどんな敵が待っているのだろう。
だが、イザは恐れをなすよりも、どちらかというと自信のほうが強かった。

イザが一番何かを恐れていた時期、それは旅に不慣れで本当の自分が無かった時期だった。
無邪気で、恐れていないように見えて恐れていた。
ハッサンが自分を取り戻して自信を取り戻したように、イザも本当の自分を取り戻して不思議な自信が身についていたのである。

それに加えて、イザには心の支えが存在していた。

その人は、イザがムドーを倒しに行くときから側にいてくれて、いつも戦いをサポートしてくれていた。
記憶を失った自分とハッサンを見守りながら、記憶が戻るまでは本当のイザはこうだったなどと押し付けたりしなかった。

…旅の途中で、ミレーユはイザにとって仲間とは違う大切な存在になっていたということに気付いたのはいつからだろう。
ミレーユの動きのひとつひとつに惹きつけられ、ミレーユが側にいないだけでミレーユのことを考えている自分が居ると。

本体を取り戻したイザはミレーユに気持ちを伝えるつもりで居た。
ミレーユは鋭いから自分の気持ちを知っているかもしれないし、今まで色々な出来事があった中でミレーユが自分を男としてみてくれている気もしていたから、余計に調子に乗っていた。

それにカルベローナでミレーユがバーバラの出自を知ってショックを受けて涙したのを知っていたし、涙を流したミレーユをなぐさめるように抱きしめても怒らなかったから。



ミレーユを館の裏の森に呼び出すと、ミレーユは調子の悪そうな顔でゆっくりとイザのほうに近付いてきた。
イザが一言、ミレーユのことが好きなんだ、と照れ交じりに言うと、ミレーユは冷たい瞳で

「そう言うとおもったわ…でも私は違うから」

と言い、さらに続けて、

「私はただの旅の仲間よ。何を勘違いしているのかしら、王子様?」
「…カルベローナのことも、クリアベールのことも、俺の勘違いだっていうのかよ」

イザは拳をぎゅっと握り締めた。
ミレーユは腕を組んで、冷たい瞳を向け続ける。

「そんなことで告白しようと思ったの」
「違…」
「イザったら本当に子供なのね。もっと大人なのかとおもってたのに」

ぐさぐさとミレーユのヒャドのような言葉がイザの心に刺さる。

「そんなに言わなくたっていいだろ…っ」
「これが私の気持ちだって伝えてるだけよ」

イザは必死にミレーユを見ていたが、ミレーユのほうがふっと目をそらし、髪をマントのように翻して館のほうに戻っていった。
その場に立ち尽くしたイザは、怒りのような悲しみのような感情をこらえようと、ぎゅっと両手の拳を握ったまま、歯を食いしばっていた。




「…色男が何を怖い顔して立っておるんじゃ?」

にやにやと笑いをこらえるような声で後ろに立っていたのはグランマーズであった。
イザは顔を見られまいと、ぷいと顔を背けた。

「何をって、どうせ見てたでしょう」
「うむ」
「じゃあ何も言うことないし」
「まぁまぁそう早とちりするでない。言葉しか信じないのはとーっても勿体無いことじゃぞ」

イザは振り向いた。
グランマーズの丸いしわしわな手がイザの手に何かを手渡した。

「これは?」

銀色の綺麗なケースに入った口紅だった。
口紅の色はワインレッド、絶対にミレーユがつけなそうな派手な色だ、とイザは考えて、
またミレーユ基準で自分が物事を見ていることに気付いて人知れず赤くなった。

「本音リップ、じゃ。これを塗った者は口紅を取るまで本音しか喋れん。
おぬしらはまだ若い。言葉一つで信念が折れることも多々あろうぞ。
本来年を重ねてそういうことを学んでいって欲しいものじゃが、年寄りの世話焼きというかのおー」

「ありがとうございます」

イザは銀の口紅を手に、グランマーズに深々と頭を下げ、ミレーユが去った方向に一目散に走り去っていった。

後に残ったグランマーズは一人高らかに笑いを響かせた。



ミレーユは玄関前の階段に座り込んで涙をぬぐっていたが、森のほうからあきらかにいま一番会いたくない人物が走ってくるのが見えて慌てて立ち上がった。

「ミレーユ、待って…」

背を向けてミレーユが家に入ろうとしたとき、ミレーユの冷えた腕をイザが捕まえる。

「最後のお願いだ…」
「…どっかいって」
「これを聞いてくれたらどっかいくから」

抱きしめさせてくれ、か?キスさせてくれ、か?
何を言われるだろうかとミレーユは予測しようとする。

しかし、イザが言った言葉はミレーユの予測の中には無かった物だった。

「この口紅を、つけてみてくれないか」
「…いいわ」

あまりに予想外で少々がっかり…いやほっとしたミレーユは、口紅をくるくると回した。
色は鮮やかな赤色で、艶やかに光っている。
イザの意図が読めないまま、ミレーユは口紅を唇に塗った。

「ミレーユは俺のこときらい?」

イザの質問にミレーユは嫌いと答えようとした。
だが口から出た言葉は正反対の言葉だったので、驚いて口をおさえ、

「なんで…そんなこと言うつもりじゃなかったのに」

「俺はミレーユのこと、好きだから。俺はミレーユの近くに居たい」
「でも、わ…私の側にいたって、いいことはないわ。私といないほうがあなたは幸せになれるのよ。どうか、私を放っておいて…」

自分の本音をぺらぺらとしゃべってしまう唇に驚きが隠せないミレーユはあたふたと周囲を見回す。
そんなミレーユの顔にイザの両手が添えられる。

「それが、本心だったのか」
「そうよ…!」

ミレーユは顔が赤くなるのを感じていたが、ここまで言ってしまった以上引き返せなかった。
赴くまま、言いたいことを言うだけいって逃げてしまおう、ミレーユはヤケになった。

「私なんかを好きにならないで。後悔するわ。本当に…あなたが傷つくところはみたくない、もっと傷つくところをみたくないの」
「俺は、ミレーユが好きなんだって…ミレーユがいいんだって、何回言わせるんだよ…恥ずかしい。後悔するわけないじゃないか。ミレーユが好きで何が悪い」

目を丸くして魔女は立ち尽くした。

「俺がミレーユを好きなの。ミレーユと一緒なら、不幸だとおもわれたってなんだっていい、ミレーユが居れば俺はいいんだ」
「…あなた、変わってるわ」
「そんなことない。ミレーユって高嶺の花っていうか、手を出しにくい女性ってイメージあるけど、本当はミレーユは誰よりも努力してて温かい人だって俺はおもってる」
「やぁね、いつの間にそんな風に観察してたの…」

言いながらミレーユは涙を流した。

「いままでそんなこと、言われたこともないわ」
「これからは、もういいって言われるくらい言ってやるんだ」
「もういいわ」

ふふっと笑ったミレーユをイザは強く抱きしめた。
イザは出会った時こんなにたくましかっただろうか。
ミレーユはイザの胸に体を預けながら不思議な安心感に目を閉じた。

「ミレーユと一緒に居られれば俺は幸せだよ。だから、変な心配なんかしなくていいから」
「…私も、イザと一緒に居たい……」

そんな二人の様子を木の陰からグランマーズが見守っていた。
二人がお互いを抱きしめて離さない様子を見て笑いをこらえながら、裏口のほうへと歩いていった。


END


~おまけ~

ミレーユさんは本音リップが怖いのです。
イザさんが一緒に寝るときにミレーユさんにつけようとするのです。
ミレーユさんは恥ずかしいので当然嫌がりますが、イザさんはミレーユさんのかわいい本音を聞きたくて押し問答がはじまるのです。
結局、二人とも本音リップをつけて布団に入って熱い夜をすごすのでした。
翌朝は恥ずかしくて顔も見れないそうです。

おしまい。




~あとがき~

主ミレが喧嘩するってあまりなさそうなので
本音を言わずにこじれることならありそうだな~とおもって
付き合う前の告白の時をイメージしてみました。

どらえもんの道具にありそうですみません!

2011.2.15 古川晃
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