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太陽神の贈り物を尋ねて1

ガシャアアアアアン!

雷鳴鳴り響く魔王の居城には怪しげな紫の霧が立ち込め、むせるような死臭と血の匂いが充満している。
その中、緑褐色の巨体を揺らしながら堂々とした佇まいで王座に座っている魔物――
ムドーは、雷の音と重なって先程鳴った音に満足し、愚かで勇敢なる人間たちを夢の世界に帰した安堵感に浸り始めた。

主の様子に、配下の魔物たちは部屋の掃除を始める。
割れた鏡の破片を触ろうとした腐った死体は一際大きなうめき声を上げてひっくり返った。

「ギョエッ!」

部屋は騒然とする。
ざわざわと魔物たちは鏡の周りに集まってくるが、野次馬根性あふれる魔物たちの中には沈黙の羊やぬけがら兵に弾き飛ばされて破片に触れてしまう者もいた。
切り裂きピエロの二体が警備兵のように鏡の破片の周辺を囲み、主の指示を仰いだ。


***


「いったーい!なにこれ、いつからここにあったんだっけ。ちょっとー、おにいちゃーん!」

イザはまどろみの中、妹の呼ぶ声で目を覚ました。

酷く悪い夢を見ていた気がする。
緑褐色の巨体を揺らしてあいつが近づいてきて…
そうだ、ムドーだ、ムドーが俺たちを、石にしてバラバラに…

「ちょっとイザにいちゃん!」

ターニアにぐいっと首根っこを引っ張られて、イザは床に落っこちた。

「ぐぁ…、なんだよターニア、俺は今」
「なんだよじゃあないでしょ、あれはなに?いつ持って帰ってたの?」

腕を組んでご立腹な様子のターニアの背中越しに見えるのは、玄関に落ちている何やらきらきらと光る欠片だった。
イザは慌てて立ち上がって玄関に向かった。

「これは…」

割れていたのはラーの鏡だった。

ハッサンが一人で背負ってやっと運べるあの大きな頑丈そうな鏡がばりんと真ん中から真っ二つに割れていた。
ムドーが怪しげな光を放って自分たちを夢の世界に飛ばそうとしたところまでは覚えている。
ムドーはラーの鏡に気付いていたのかもしれない。
二度とはむかえないように、鏡を割ってしまったのか。

「…どうしよう」
「こんな大きな鏡どこから持ってきたの?しかも割れちゃってる」

ターニアがひょいっとイザの横から顔を出し、割れた鏡を覗き込む。

「あれ、鏡の中の私元気がないみたい。なんでかな」
「あー、とにかくちょっと出かけてくる!」
「えーっ、このままにしておくの!」

妹の抗議する声を聞かなかったことにして、イザは扉を開ける。
器用に鏡の破片を飛び越えて外に出て、両手を広げる。

「ルーラ!」



イザは一路、マルシェ(=シエーナ)から大地の大穴を目指した。
冠職人が落ちかけたあの大穴からトルッカの近くへ、そこからルーラでグランマーズの館に向かった。

元々夢の体だったので飛ばされても変わらなかったらしい、夢見のしずくの効果は切れておらず、イザの姿は透けていなかった。

「イザ」

日が暮れる頃、グランマーズの家の扉の前に座り込んでいたミレーユが顔を上げてイザを迎えた。

「早かったわね」

ミレーユの顔はいつもよりも青白かった。
この表情、いつもよりも枯れた声からして状況は悪いのだろう。
イザはなんとなくそう感じ取った。

「状況は最悪よ」
「…なんとなくそんな気がしてた」
「ハッサンとバーバラがまだなんだけど、とりあえず入って」

ミレーユの後について中に入ると既にチャモロが席についていた。

「イザさん」

チャモロはグランマーズの淹れたハーブティーの湯気で曇った眼鏡を拭きながら言った。

「ムドーに負けて飛ばされたにも関わらず、我々は記憶を失っていません。
私もゲントに戻されただけでこの通り」

「おそらく、鏡があった影響じゃよ。
おぬしらを夢の世界に飛ばそうとしたとき…
これはバシルーラという魔法じゃから、体と心を分離するほどの力はない。
心と体を分離しようと別の魔法を唱えようとした、しかしその魔法は鏡が邪魔して発動せんかった」

「鏡は割れちゃってましたよ」

イザは小さな声でそう添えて、湯呑みを手に席についた。
ミレーユとチャモロがため息をつく。
同時に、扉が開いてハッサンとバーバラが入ってきた。

「危うく1ゴールドも持ってなくてキメラの翼買えなかったぜ…
ちょいちょいっとガンコ鳥捻ってやっと」
「あたしはみんなの荷物からキメラの翼使っちゃった」

全員が席に着くとグランマーズは水晶玉の布をめくった。

グランマーズのよくわからない呪文の詠唱が終わると、水晶玉には高い山とのどかな畑…牛…そして教会が映っていた。

「ライフコッドだ!」

玉が映し出す光景は教会の中、神父さんが女神像を布巾で拭いているところで終わった。

「山の精霊さまにお願いしにいけ、ってことかな」

精霊さまはレイドックに行く前にターニアに重なって見えただけだから、また会えるかどうかはわからない。
だけれども、この占いが外れる気はしなかった。

「行きましょう、こういうとき神様が裏切ることはないです」
と、チャモロ。

チャモロが立ち上がって出て行くと、バーバラが立ち上がる。
スカートの裾をちょんちょんと直して
「夢の世界ならなんとかなるよ!」

ミレーユは前の二人を見送って、苦笑した。
「みんなお気楽ね。あたしも見習わなきゃ」

最後にハッサンに思いっきり背中を叩かれた。
「ファルシオンを迎えに行ってからだぜ!」

イザはやっと笑みを漏らした。
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