「ここがサマンオサか…」
今まで居たランシール、アリアハンは海の国であり南国で暖かだったが、
途中で通ったバハラタは乾燥した大陸、グリンラッドは驚くほどの雪景色…
もとの世界であれほど雪が積もっている場所をイザはまだ見たことがなかった。
もっとも、人生の大半、つい最近まで山の上だけで暮らしてきたイザにとってはほとんどがはじめての場所なのであるが。
また、グリンラッドの祠は井戸とは大違いの空間であった。
三箇所のほかの祠と繋がるグリンラッドの祠には、要するにイザたちからすれば井戸が三つもあるように思えた。
きちんと壁で仕切られており、どこへ行く旅の扉だと親切にも札がつけられている。
この世界はイザたちのいた世界より進んでいるのだろうか。
それとも、イリス人たちが造った月鏡の塔のように、イザたちの時代には忘れられてしまった世界なのだろうか。
そしてここサマンオサはそれとはまた違った空間であった。
高い山に囲まれて海は見えず、荒々しい山地に起伏の激しい大地、そこを流れる一本の大きな川…
時折姿を見せるのは仮面を被った人型のモンスター、ゾンビマスターだ。
縄張りに入り込んできた侵入者だと思って襲ってくるようで、山地から離れて平坦な草原に出るとゾンビマスターの姿はまったく見えなくなった。
「ゾンビマスターは、もともとは隠れ住んでる生き物だ。
あれが草原や城の近くに頻繁に出てたあの頃が異常だったに違いねえ」
カンダタに連れられて道なりに進んでいく途中にも、種類は違ったがいろいろなモンスターに出会った。
バハラタ周辺で見た紫色のゴリラよりも一回り以上も大きな緑色のゴリラ、ベホマスライム、妙に甲羅の硬いガメゴンというワニだ。
カンダタに教わったのは、正攻法では効率の悪い敵もいるということだった。
ガメゴンにルカニをかけてから剣で倒しにいくよりも、遠くからチャモロが習得したばかりのザキで一発を狙うほうが効果的だということだった。
ザキはすべての敵に必ず効くわけではないし、回復できる魔力は残しておかないといけないが、結局回復につかう魔力のほうが多くなっては意味がないとカンダタは教えてくれた。
サマンオサの城下町に到着するともう暗かったので一泊することにした。
明日の朝、洞窟に向かうことになる。
イザたちは酒も控えめに布団にもぐった。
***
「ぎゃあっ!…なんだよ、イザ、ひやっとしたじゃねえかよぉ」
「ごめんごめん、悪気はなかった」
サマンオサの洞窟は沼地の真ん中、古びた橋を渡った先にあった。
朝起きたイザたちはカンダタが手紙を残して別の手がかりを探しに行ったことを知り、自分たちだけで洞窟を探索することに決めた。
地図を片手に、用意周到なほど薬草を買い込んで慎重に洞窟へと向かったところである。
鉄の橋は沼地の成分で変色がひどく、周辺にウロウロしているゾンビマスターの奇抜な黄色と赤と緑の装束も手伝って気味の悪さを存分にかもし出していた。
洞窟の中は地上よりも暑かった。
ところどころに水溜りが出来ているが、水はどれもぬるい。
チャモロが推測するに、これは地下水で、この暑さは火山が近い証拠なのではないかということだった。
階段を降り、地下二階に着くと、何もない一階とは打って変わって宝箱だらけだった。
「なんだこれ!」
「おい、開け放題か?まさかの」
ハッサンが近くにあった宝箱をあけようとしたので、イザはとっさにインパスを唱えた。
しかし、イザが赤い色を認識するころにはハッサンはもう箱を開けてしまっていた。
「うわああああ!」
「ハッサン!」
箱の中からは不気味な目と舌が飛び出し、重たい箱とは思えないスピードでイザたちのほうに跳びかかってきた。
弾丸のごとく跳んできた箱はチャモロの槍に跳ね飛ばされたが、まったく効いていない様子で再びこちらに向かってくる。
「ミミックだっ!」
「ミミックはザキをつかうよ!気をつけて!」
バーバラがギラの呪文でミミックの視界をさえぎった。
「走れ!」
一行は大急ぎで階段を駆け上った。
下から跳ね上がってくるミミックにイザはルカニを唱える。
ハッサンが大きく地を蹴って、ミミックめがけて飛び降りた。
「くらええええっ!!!」
上から飛び降りたハッサンの足がミミックの鉄の体に叩きつけられる。
「グェ!」
ミミックの体にびしっとヒビが入り、床に落下した。
舌がびくびくと動いているのを見てイザは剣を振り下ろした。
「あー、死ぬかと思った…。これからはインパスかけてから開けような…」
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