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小さく開いた距離が始まり

歩けば誰もが振り返る冷酷な美女、だけど中身は面倒見が良くて優しいお姉さん、それがミレーユだった。
ハッサンもミレーユもイザにはないひらめきのセンスがあるようで色々と思いつくことが多かった
(無論結局実行するのはイザの役目だ)から、ミレーユから指示を受けて何かと準備をするのはいつもイザの役割だった。

新しく仲間になったバーバラはそっちの話題に熱心なようで、イザとミレーユについてもしつこく事情聴取してきた。
イザはバーバラに言われてはじめて、男二人女一人の旅なら男が女を取り合うことが多いと教え込まれて納得した始末で、イザ自身はそんなことを考えたことはなかった。

バーバラはその意味でも新しい風を吹き込んだようである。

少し意識して見ると…つまり街ゆく人々から見れば自分たちはどう見えるのかとか、考え出すと面白いのだが少し怖い。
自分たちそれぞれがまだ知らない秘密を抱えているかもしれないし、他の人から見たら自分が思ってもないような思われ方をしているかもしれない。
バーバラに言わせれば、ハッサンは故郷に幼馴染の女がいて密かな恋心を抱いているだとか、意外と一途だろうとか、一人前になったらカッコイイ自分を見せに帰るはずとか、ハッサン一つとっても新鮮だ。


イザがバーバラに自分のことを見てもらおうとたずねると、バーバラは探偵のようにキメ顔で唸った。

「イザってさ~、女の子に慣れてるよね」

あ、変な意味じゃなくて、とバーバラ。

「女きょうだいいるでしょ?
家族に女がいる男って女に慣れてるのよ。
だから女なら何でもいいーとかなりにくいの。
ほら、例えば最初にあたし見ても『女がいる!』って思わなかったハズ!」

確かにそうだ、とイザが大きく頷くとバーバラは残念そうに遠い目をした。

「かわいそうにあたしの魅力に気付けなくて…」
「え?」
「あーなんでもない!なんでもないよっ!どうせあたしは小娘だもん!
…小娘のあたしはともかく、ミレーユとかどうなのよ、イザには女に見えないわけ?
まぁちょっとキレイすぎて怖いけど」


その後、イザはミレーユを観察してみた。

焚き火にかけた鉄の鍋を掻き混ぜる白い腕、丸太に腰掛けて長い足を抱きこむように座っているミレーユ。
オレンジ色の明かりに照らされる頬は陶器のようになだらかな線で、汗で流れた化粧を拭い去っても大して変わらない顔、そして今日モンスターに切られて血を流した唇。

イザは改めて、こんな美しい女性が一緒に旅をしているのだと
…寝食共にしているのだという事実を思い知った。

(ミレーユ、ときどき物憂げな顔するけど、誰のこと考えてるんだろう)

もしやミレーユも故郷に幼馴染の思い人が…なんて、バーバラのハッサン妄想を当てはめてみたりしてイザは身震いした。

(なんだか嫌な感じがするからやめよう)

イザにはミレーユが誰かの女になっている姿がとても想像できなかった。
自分たちはいつまでも仲間で居るんだと気楽に思っていた。
でもそうじゃなくなる時もくるのかもしれない、イザはふと不安を感じた。

(ミレーユに言ったら笑われるんだろうな。いや誰にいっても笑われるか)

この気持ちは自分の中だけにしまっておこう、イザはそう決めたのだった。
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