闇の中、明るい光と騒がしい音が聞こえる方向がある。
その城の名はレイドック、言わずと知れた世界の勇者の居る城である。
今宵は大魔王デスタムーア討伐の帰路についた王子イズュラーヒンとその仲間たちを祝福する宴であるから、酔いすぎるのもいたしかたない。
民が酔いしれ、兵が武器を放り出して酒を手にするこの日、世界から見たらなんの不安もなかった。
そこに一人の男が、一部限られた者の元へ不安を持ち込もうとしていた。
騒がしい城内では男の姿は不審に見えないらしい、男は民にも兵にも目をくれず、勇者たちの居る場所を目指してしっかりとした足取りで歩いていた。
それこそ見なくても場所がわかるかのよう。
男がゲントの子の側を通ると、黄色い僧服の少年ははっと振り返った。
完全に出来上がっている大工の息子と孤島の大魔女は男に気付く様子もない。
少年は男に気付いた青い稲妻が歩き出すのを確認して男から視線をはずした。
「おまえ、何者だ」
人気の無い廊下まで後を付けてから、軽い殺気を放って、青い稲妻は問う。
「…天空の使いとでも名乗ろうか」
男は低いしゃがれた声で笑った。
黒いフードに皮の鎧、足に巻きついたボロボロの包帯、明らかに異質な男は続ける。
「くくく…世界のはざまが消えるとき、おまえたちはどうなるかわかっているのか。
親がわからぬガンディーノの姉弟よ」
剣士は目を見開いた。腰にさした剣は男の首にぴたりとつけられた。
「貴様らこそ、夢の存在であること」
男は動じずに続けた。
「試験体であること」
「黙れ」
「何も知らずに幸せなことだ」
剣士の美しい顔が険しくなった。
「何が言いたい?」
「貴様らは人ではないのに呑気だと言っているのだ」
「何を言っている…」
男はフードをぱっと払う。
「…!」
「どの世界も神々の審判にかけられるのだ。
神々はより争いのない世界を目指そうとして改良を続ける、その実験台なのだよこの世界は!」
剣士と同じ髪の色で、耳が尖った男は盛大に笑った。
「おまえも、姉も。次のステージへの踏み台なのだ。
世界平和を達成して喜んでいられるか。おまえたちの運命など仕組まれたもの、おまえの姉が人の欲望に巻き込まれることも、おまえが魔王の手下になることも、すべて仕組まれていた!おまえは実験台なのだ!」
「黙れ!」
剣士の振るった剣は確かに男を切り裂いた。
しかし、男はその場に居らず、今のことが現であったと証明してくれるものは剣に付いた赤い血だけであった。
「ねえさん…!」
剣士は走り出した。
(つづく)
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