レイドック城のテラスに、二人の人影が見える。
一応立派な格好はしているが着崩しすぎて王族というよりモデルのように見える青年と、珍しく騒ぎすぎたのか髪の毛があちこちほつれている女性である。
二人は旅のことをいろいろ振り返って懐かしげに話をしていたが、ふと青年はまじめに女性を見つめる。
「いつ、また会えるかな」
女性は驚いて、微笑んだ。
「いつだって会えるわよ」
「だって毎日一緒に居たのにさ、いざはなれるとなると」
「私…占い師の修行がおわったら」
女性が何か言おうとしているが、言葉にするのをためらっているのか先が出てこない。
青年は女性の肩を抱いて、顔を寄せた。
「待ってるから…」
「ほんと…?待っててくれる…?」
少女のような心細そうな言い方をする女性に、青年は優しく語りかけた。
「俺が記憶を取り戻すのを、ずっと待っててくれたじゃないか。
サンマリーノでこっちは初対面でさ、あんた呼ばわりして、散々疑ったりしてさ」
「それはもういいのよ、ムドーのせいだし、仕方ないことだわ」
それに、と女性は言う。
「記憶が戻ったあなたは、前より何倍も素敵になってるわ」
「釣り合う男になれたかな」
幸せそうな二人が、急に顔色をかえた。
血の臭いが風に乗って流れてくる。
「…!」
戦い慣れた二人は身構え、屋根の上に目を留めた。
黒い影が立っている。影は手を広げ、乾いた笑いで二人を見下ろす。
「ガンディーノの魔女。人になりきったつもりか」
「…なんのこと」
女性が警戒した声で答える。
「貴様らは人ではないのに、世界が平和になったとかで喜んでいる。
神につくられた存在め。
人が平和になるために、不幸にならなければならなかった存在のおまえたちは、今でも試作品のくせにと、貴様の弟に説教してきたところだ」
「テリー…?!」
「この傷は弟がやった!私は正しいことを教えただけなのにな、ククク…。
本当の親を知らず、存在意義を知らず、運命は過去のことで今は自力で切り開いていると思い込んでいる…警告だ、これは警告なのだよ!」
「ねえさん!」
剣士が廊下を走ってくるのが見える。
「そいつを斬る!」
「待って!」
女性は男を睨んだ。
「あなた何を知ってるっていうの?警告?どういうこと」
男はゆらりと動き、屋根の上から飛び降りていなくなった。
「これは警告なのだよ…」
男の残した不穏な響きが、血の臭いと共にその場に残されていた。
(つづく)
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