静かな海の世界に、一隻の船が現れた。
人魚の琴をかき鳴らし、繊細な泡に包まれた豪奢な船である。
「ルビス様の神殿はこの辺りだったっけ?」
イザは地図から顔を上げた。
宴会の途中に妙な男が現れ、テリーとミレーユに不穏な言葉を吐いていったあの事件の翌日、事情を聞いて居ても立っても居られなくなったイザ一行は、帰ってきたのもつかの間、ちょっとルビス様の城に行くと言って城を後にした。
ルーラで近くの町にとび、そこから魔物が減った平和な海に船を進め、人魚の力で海底にもぐった所だ。
「それにしても妙だよな」
腕を組んでハッサンが言う。
「そいつは何を言いたかったんだ?」
「あいつは人じゃなかった…」
テリーが顔を上げた。
「耳が尖っていた」
「海の精とか…人魚の部類はそうだけど、あとは童話でしか見たこと無い妖精とか」
「魔物に近いかもしれませんね」
チャモロも頷く。
「あの男、見えるわけでもないのに一直線にテリーさんの所に歩いていました。
テリーさんは影にいたので普通は見えません」
「…あの男、わたしたちの親がどうのっていってたわ…。確かにみなしごだけど。
本当の両親のことは覚えていないけど…。
とうさんとかあさんが拾ってくれたところからしか覚えていないけれど」
ここによる前に立ち寄ったガンディーノでジャームッシュとマルタに聞いたところ、二人を最初に見たのは冷たい雨の日で、傘もなく布の服一枚のミレーユがテリーを抱きかかえてじっとうずくまっていたという。
テリーはまだ赤子であった。
その布にミレーユ、テリーと書かれた紙が挟まっていたと。
「この書き方、どっかで見たことがあるような気がするんだよねえ」
ミレーユの持つ紙を覗き込んで、バーバラが言う。
「ほら、この筆の使い方、今じゃしないでしょ。
Mの書き方がちょっと古めかしいっていうか。
あとこの紙とインクちょっとヘン」
「そうね…もうすごい前のものなのに新品みたい」
ふと、ついていた折り目を伸ばすと皺がなくなった。
驚いた一行は目を合わせ、もう一度ミレーユが折り目をつけ…開いた。
「なんてこと…」
やはり皺はなくなっていた。
これもやってみましょう、とチャモロがコップの水を紙にかけるが紙は湿らずインクもにじまない。
バーバラがメラの炎をかざしても焦げず、やぶこうと力を入れても薄い癖に鉄のように硬い。
「なんなんだこの紙は!」
「これは世紀の発見ですよ!」
「すごい素材だぞ!」
「素材がすごいんじゃなくて魔法でもかかってるんじゃないのか…」
船に影がさしこんだ。
白い城壁が見え、壮麗な城門に近づいている。ルビスの城に着いたのだ。
「いこう」
イザは一同を促す。
「ルビス様に聞いてみよう」
(つづく)
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