イザ達はゼニス王に仕える一人の兵士に連れられて城の廊下を歩いていた。
兵士はどうぞと言って、ドアの横に立った。
「あなたがたが開けてください」
ここまで案内してきた割にドアは開けないのかと不思議に思いつつも、誰が開けるかと迷っていると
「俺が開ける」
テリーが名乗りを上げた。
「いいだろ」
「ああ」
ミレーユの手はイザの手をこれでもかというほどに握り締めていた。
額のサークレットが迷いを戒めているのだろうか、チカチカと光っている。
「ミレーユさん、迷う必要はありません。もっと堂々となさっていいはずです」
チャモロが静かにやさしく話しかけた。
「そうね…わかってるんだけど、できないものなの」
ミレーユは苦笑して髪を掻きあげた。
木のドアを開けると、正面には暖炉があった。
誰もいないかと思ったが、中の部屋は意外と広いらしく、一歩踏み出したテリーは息を呑んで思わず立ち止まった。
「よくぞここまでたどり着いた」
低いバリトンの声が響いた。
「うわっ、なんて美声」
と、バーバラは頬に手を当てたが、部屋を覗いて目を丸くした。
「我々に驚くのは仕方がないが、そこは狭い。早く入ってはくれないか」
「ああ…」
順番に部屋に入ったテリーたちは横一列に並んだまま、声の主とその向かいに座った者を見つめていた。
低く美しい声を発しているのは青い体に紫の髪と髭がもっさりと生えた魔人だった。
黄金の角が2本、頭から生えている。
下半身と爪は馬のようで尻尾もある。そして蝙蝠のような翼が生えていた。
「我が名はフランボワヤン、君たちは知らないかもしれないがヘルバトラーという種類の半獣魔人だ。
こちらは、リディア、有翼族と人間のハーフだ」
向かいに座った人物は、一見人間のように見えた。
色素は薄いが肌色の顔、瞳の色は片方ずつ違った。
空のような蒼と花びらの色のような紫の目だ。
金色の髪は静電気を帯びてふわふわと浮いている。
白い布を巻きつけるように身に着けた女性の背中からは白い大きな翼が生えていた。
「…真実を知らせなければいけないときがきてしまったのですね」
女性は悲しげに微笑んでいた。
その場の誰もが、その自嘲気味の悲しげな微笑みに見覚えがあった。
「あんたたちは」
テリーが感情を殺した声で静かにたずねる。
「俺たちの本当の親なのか?」
「そうです」
「なぜ俺たちの親がゼニス王の城に居るんだ!?
ねえさんがガンディーノの城に出されたときも、俺がデュランに取り込まれたときも、何もしなかったっていうのか!?」
抑えきれなくて熱くなるテリーを魔人がたしなめた。
「我々はいつも君たちを見ていた」
魔人が手をかざすと、机の上に水晶球が姿を現した。
魔人は水晶に両手をかざし、何かを唱える。
ミレーユはあっと驚いた声をあげる。
魔人が唱えた言葉はグランマーズが使っている魔法と同じだったのだ。
水晶にはガンディーノが映し出されていた。
「しかし、我々には何もすることは許されなかった。
それが神々との取引だったのだ」
イザがたずねる。
「それについてゼニス王はよく教えてくれなかったんですけど、つまるとこどういうことなんです。
神様たちもカルベローナの人たちも似てるけど、なんか考えて自分で理解しろみたいな感じじゃないか。
んでも俺にはさっぱりわからなくて困ってます」
イザの素直な言葉に、魔人と女性は緊張した顔を解した。
「すまなかった、難しい世界に居ると何かと遠まわしに伝えようとしてしまうもので」
「ほんとすいません」
「いや、いいんだ」
女性が立ち上がった。
「まず…私がこの城に来た頃の話をしましょう」
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