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新世界のオルゴール9

自嘲気味の笑い声が部屋に響く。テリーは鼻で笑った。

「『魔性』がなんのことを指すのかさっぱりわからないな。
俺はこうして普通に生きている。
フン、それともある日急にこの皮を剥いでバケモノになるとでも言うのか?」

フランが答える。

「魔族とは、自然の生き物に魔法が影響して特殊な進化を遂げたものを言う。
特殊な進化を遂げたがゆえに、生まれながらにして魔法を使うものや火を吹くものも居る。
魔性は魔法の強さに引かれる属性のことだ。
魔族が上の者に従ってしまうのは上の魔族ほど遺伝子に組み込まれた魔法の影響力が強いからだ。
自然の生き物は魔性を持たないから、魔法の影響力の違いで上下を決めることはないし、単なる魔法の影響力で暴れることもない」

「テリーは生まれながらに魔性に目覚めていました。
神々やフランには、テリーは人間離れした体力、素早さ、優れた魔力を持つ戦士になるだろうとわかっていました。
やっと言葉を話せるようになったばかりのミレーユとまだ歯も生えていないテリーを地上に送り出すという神々に私たちは抵抗しました。
しかし、私たちはただの創造物、相手は神、かなうわけがありません。
泣く私たちに神々は成長を見守るようにと水晶球を授けました。
それ以来私たちはずっとあなたたちを見守ってきました…。
ミレーユがシェリスタをかばって蛇と戦ったとき、ムドーにナイフをつき立てようとしたとき、魔性が目覚めたことを知りました。
でもあなたたちは、魔の力に飲み込まれず自分の力にしてデスタムーアを倒してくれました…。
本当に、本当に強くなって…。
私たちが思ってたよりずっと強くて…」

女性の目から涙が零れ落ちた。

「ごめんなさい、なにもできなくて、なにもできなくてごめんなさい…。
いままで本当にごめんなさい。
でも、私たちのことは忘れてください。
あなたたちの父はジャームッシュ、母はマルタ。
あなたたちは人間なのです…!」

ミレーユがイザの手を離し、テリーの腕をつかんで前に出た。

「私たちの父はジャームッシュ、母はマルタです。
人間として育ってきました。
でも時々、頭が痛むんです。
ギルドのサークレットがこうしなさいと縛ってくるから忘れていたけれど、本当の自分に向き合うのが怖かった。
自分は自分じゃなくなってしまうかも、そう思ってきました。
…今日、私はここに来て良かったと思っています、私を生んだひとたちも沢山怖い思いをして、今まで何も知らない私たちをもどかしい気持ちをずっと見つめていたんだって気付いてよかったって」

「哲学好きなねえさんが気にしすぎなだけだろ…ぐあっ」
テリーのそっけない言葉に、バーバラが肘鉄を食らわせた。

女性はミレーユとテリーの手をとった。
「ああ神様、もう一度この子たちに触れることが叶うなんて」

涙に濡れた頬を魔人の手がぬぐった。
「魔性を封じ込めなかったテリーのほうが悩まなかったようだな。
ミレーユももう、サークレットの縛りは必要あるまい」

魔人の指から青い光が走ったかと思うと、パキンと何かが壊れる音がした。
ミレーユは首を回したり振り返ったり頭を触ったりしたが特に何も変わった様子はなく、首をかしげた。

「今から、以前君が避けていた冷酷な君も本当に君の一部になった。
魔性と向き合い、より良く生きるんだぞ…」

女性は、神様はいつ新世界に旅立つと言ったかと尋ねてきたが、イザが本人たちでなくても血を継ぐものなら良いと言ったと答えると複雑そうな顔をした。

「今は救いに聞こえるかもしれません。
でも、自分の子孫を送り出すと言うのはとても苦しいことですわ。
よく考えてください」


ゼニス城に一泊することになったイザたち一行は、世にも奇妙な料理を食べ、謎の葉っぱが詰まった布団に横になった。
イザが夜中に目を覚ますと、ミレーユが椅子に座って外を眺めていた。

「寝れないの?」
「おきちゃった?」
外に行きましょ、とミレーユは言う。

イザとミレーユは二人並んで城のバルコニーに立っていた。
しばらく沈黙があった後、ミレーユは口を開いた。

「もし、自分の子供に新世界に行かせることになるならって考えちゃうといっそ自分が行ったほうがいいのかなって思っちゃうの」
閉じた目蓋から涙が零れ落ちる。
「勝手じゃない、わたしが行きたくないから子供に行けっていうのは」

「それは、ほんとにミレーユが思ってること?
ほんとはわがままいってでもこっちの世界に残りたいとか思ってたりしないか?」

イザの問いに、ミレーユは額を押さえた。

「…はぁ、いけない癖だわ。
サークレットがもう言ってこないもんだから、自分で自分に言い聞かせちゃってる。
ええそうよ、本当は残りたいわ、イザの側に居たいわ」

イザはミレーユが素直に告白してきたので一瞬驚いたが、照れた顔をごまかすように笑った。

「それに、ミレーユは行きたくないかもしれないけどさ、いつか誰か自分から行きたいって思う人も出てくるかもしれないよ。
うちの父さんみたいに。
城に居てもいいはずなのに自分でムドーを倒しに行ってみたりとかさ」
「それはありえるかもしれないけど…」
「けど、って言ったら始まらないさ。
それとも、ミレーユは俺をおいて別の世界に言っちゃうのか」
「いやよそんなの」

イザをターニアちゃんにとられちゃったらと思うと…とミレーユは小さくつぶやいたが、夜風がびゅうっと吹いたのでイザには聞き取れなかった。

「え、なんか言った?」
「言ってない、言ってないわ」

ミレーユはイザの腕にほっそりとした手を乗せた。
イザの胸に体を預けて、顔を見上げる。

「ねえ…、私がいかないってことは…」
「な、なに?」

イザにはミレーユの唇が妙に妖しく感じた。

「…言ってもいい?」
「何を…?」
「…やだ、わかってくるくせに」
「…」

ミレーユの腕がイザの背中に回される。
イザはミレーユにぴったりと体をくっつけられて顔を赤くした。

「イザ、大好き…」

何を言うのかと思ったがそっちだったか、とイザは心の準備をしたことを少し後悔しつつ、サークレットの縛りがなくなったせいか妙に積極的になったミレーユをますます愛しく思ったのであった。
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