「私は物心ついた頃にはグレイス城の近くの森でひっそりと暮らしておりました。
ある日、グレイス城を不気味な雲が包み込んだかと思ったら、大地が大きく揺れ、城から大きな爆発が起こったのです。
城の中から発せられた強烈な雷で城の人はみな死んでしまいました。
そして城を包み込んでいた雲がすごい速さでグレイス島全体に散っていき、島全体をボロボロにしていったのです」
「オルゴーの鎧のあれだ…!」
イザたちは顔を見合わせた。
「私も気を失ってしまい、目が覚めたときには森の木は折れていたし、近くには毒の沼が広がっていました。
そしてグレイス島にはそれ以来凶暴なモンスターが増えてしまい、私も何度危険な目にあったかわかりません。
もうこの島を出ようと私は決心し、東へ東へと飛んでいきました。
けれど、どこもモンスターが増えていました。
かといってこの姿では人の住む街では暮らせません。
人の住む街をひとつ越え、大きな崖を越えたころ、広くて美しい草原の中にひとつほこらが建っているのが見えて、そこで休ませてもらおうとほこらの中で寝たのです。」
女性は目を閉じた。
「驚いたことに、目を覚ますとこの城の庭で寝ていたのです。
私はそれ以来この城にお世話になっているのです」
「寝ている間に夢の世界に来てしまった?
確かにあの四つの武具のほこらは境界が薄いところでもある」
「そんな私に優しく色々と教えてくれたのがフランなのです。
フランもこの城では異常な存在ですから」
女性が魔人を振り返る。その視線は温かかった。
「私は、昔は一介のモンスターとして私よりも上級の魔族の命令を実行するという生活をしていた。
しかし、ある日ダーマ神殿から来たという魔物使いに会い、彼の話を聞くうちに世界を見てみたくなってついていったのだ。
彼自身はそう強くなかったが、彼は非常に広い心を持っていた。
魔物であろうといいやつはいるんだと彼はいつも言っていた…。
彼は老い、出身国に帰ると言って私と別れた。
彼の名はセバス、少年の心を持った青年だった」
「セバス…!?」
魔人は続けた。
「その後、ダーマ神殿という場所を探して世界を旅した。
私も彼のように役に立つ職業に就こうと。
しかし、見つけることが出来たのはもはや荒廃した神殿の跡だけ。
ある日、セバスと旅をした中でも海の上に険しい山に囲まれた島があったことを思い出した。
その島の外からでも、島の中にあるらしい高い塔が見えていた。
不思議とそこへ行ってみたくなり、色々な手を尽くしたがあの山を越える事はできなかった。
それでも崖のような山を登っていたが、私はついに手を離してしまい、海に投げ出された。
遠のく意識の中、美しい女神が現れて話しかけてきた。
心清き者よ、まだ死んではなりませんと。
女神はルビスと名乗った。
彼女は私をここに連れてきて、魔族と人間の融和の道を後の世に残して欲しいと言ったのだ。
しばらくした後、リディアがやってきた。
私とリディアは人間ではないが人間に近い存在、そしてお互い神に命を救われた身。
神々がゼニス王の城に居る我々に目をつけるのも無理はない。
これほど好都合な駒はないだろうからな」
ハッサンが口を挟んだ。
「それがさっきゼニス王が言ってた、計画ってぇやつか…」
「そうだ。私はともかく、リディアは不安で不安でしょうがなかったようだ」
「当たり前のことです」
珍しく強い口調で女性が言う。
「神々は言いました。
生まれた子供が目覚めた魔性を少しでも持っていれば実験の価値があると」
「まった、まった、難しい。もうちょっと説明してください」
イザが手を挙げたので、女性ははっと我にかえった。
「私とフランに子供が出来れば、魔族と人間と有翼人の血を引いていることになります。
私やフランはその特異性から人の世界になじむことが出来なかったけれども、生まれた子が特異でありながらも最初から人の中で育てばどちらも理解できる者となり得るのではないかと神々は思ったのです」
「最初から人の中で育てばってことは」
バーバラがおそるおそる聞く。
「生まれた子供が特別なら取り上げられちゃうってこと?」
「そうです。
…ミレーユが生まれたとき、私はほっとしたのです。
ミレーユは本当に人間のようでした。
翼もなく、魔族らしくもなく。
持って生まれた魔法の才能はフランに似て人間の領域を出ていたかもしれませんが、このとき魔性は見えなかったのです。
数年間、私とフランとミレーユはこの部屋で幸せに暮らしていました。
その数年後、テリーが生まれたとき、神もフランもわかったようでした。
この子は身に魔性を宿していると」
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