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天球ギャラリー

小説、イラストの保存庫です。
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妖精の鏡5

目を開くと、目の前にはこじんまりとした教会があった。
村に居るのはわかるのだけれども、火が灯されていても看板の文字はぼやけていて良く読めない。さっき寝たばかりだから夢なのだろうか。
星空と月の明かりを頼りに道のような道を歩いていくと、一軒の家の前に誰かが立っているのが見えた。
ターバンこそしていないけれど、黒い髪の少年だった。リュカだろうか、と私が近付くと彼はぱっと振り返った。

「…フローラ?」
「リュカ!」

リュカが近付いてくると無性に嬉しくなって、何を言えばいいのかわからなくなってしまった。

「これは夢なのかな…」
「そうかもしれないわ、だって私こんなところ来たことない」
「そっか、ここね、ぼくの家なの」

家の窓にはカーテンが見えて中の様子はよくわからないが、リュカが少し開けたドアからは一階にぼんやりとした電気がついているのが見えた。
リュカはドアを閉めて私の手を取った。

「夜だからあれだけど、ちょっとぼくの村歩こ!」
「え、何も見えないのに」
「大丈夫いつも歩いてるから。それに夜の村なんて歩いたことないから歩いてみたいんだ」

リュカに手を引かれて暗がりを歩いていく。

「リュカは家でお父さんと二人?」
「ううん、サンチョっていうおじさんも一緒に住んでるんだ。サンチョの料理は本当においしいんだよ、どんな料理だって作れちゃうし。
あとね、ぼく猫を飼ってるんだ」

どんどん話していくリュカは昔船で見た静かさとは正反対だった。これは夢幻なのか、それともあの時は初めて会ったからだったのか。
とにかく楽しそうに話すリュカを見て安心した。

「プックルっていってね、これくらいの猫なの」
「大きい猫さんね!」
「大猫なんだよ。ちょっと虎に近いのかもね。でもいい子で、ぼくと一緒に居てくれるんだ。ぼくの友達」

宿屋の前の灯篭の明かりの下に座り込んでリュカの話を聞いた。
あれからサンタローズ着いたこと、洞窟を冒険したこと、レヌール城にお化け退治に行ったこと。妖精の村に春をもたらす手伝いをしたこと。
話をしていくうちに自分もすっかりリュカと一緒に冒険している気がして、嬉しくなってしまった。

「リュカったら、ほんとに冒険が好きなのね。お話もうまくて…いまの冒険を本にしたらみんなが読みたがるわ」
「本って、ぼく文字読めないし書けないんだけどね」
「あらそうなの?わたしも少ししか書けないんだけれど…」

リュカの意外な欠点を知って驚きつつも、自分にも手伝えることがあるんじゃないかと思った。

「そうだわ、いまのお話、きっと後でわたしが紙に書いて本にするわ」
「じゃあぼくはもっと冒険する!フローラが書き切れないくらいに」
「うふふ、楽しみね」

と、その時、宿屋の扉が開いた。
男が三人ほど話をしながら出てきたが、宿屋の目の前にいるのに自分たちには気付かないようだった。

「やっぱり夢なのかも」

リュカは自分の頬をぐにゃとつまんだ。

「フローラ、また会えるよね」
「こんな風に会えたんだもの、きっとまた会えるわ」
「父さんと明日ラインハットのお城に行くことになってるんだ」

ラインハット、その名前は聞いたことがあった。
父は言った、この世界に存在する城はラインハットとテルパドールとグランバニアだと。
グランバニアは山奥にあって父は行ったことがないらしいけれど、残りの二つには父の知り合いが沢山居るんだと言っていた。

「どうして?」
「わからないけど…」
「きっとまた冒険が待ってるのね」

不安そうなリュカは、私の言葉を聞いて、そうだねと笑った。

「色んなところを冒険して…いつかフローラの住んでる町にも行くよ」
「うん、待ってる」

ふと、周りが白くなってきた。あれと思っている間に目の前は真っ白になって、真っ暗になった。

「フローラ、朝ですよ」

お母さまの声で目を覚ますと、そこはなんの変わりもないサラボナの家だった。枕の隣を見たけれども黄色い花びらはなくて、全部夢だったんだと思った。
ベッドから降りて鏡を覗き込もうとすると、鏡の端っこに黄色い花びらが張り付いているのを見つけた。これを取ったらいけない気がする。
そう思って誰にもとられないように、黄色い花びらを隠すように鏡台の上にぬいぐるみを置いた。

これから毎晩あの夢が見られるのかな、そう期待していたけれど、世界に広がる黒い闇はゆっくりと動き出していて、私とリュカの夢が繋がることは長い間なかった。
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妖精の鏡4

私は船から身を乗り出して、親子がビスタの港に降りて歩いていく後姿を見つめていた。
船が動き出して、父が私を降ろそうとしても、二人の姿を見ていたかった。
ふと、リュカが振り返った。黒い目が私を見て、手を大きく振る。

「フローラ!またね!」
「リュカー…!」

手を振って…小さく小さく見えなくなるまで手を振り続けた。
やがて海と山しか見えなくなって、手を振ることをやめると、父が不思議そうに私を覗き込んだ。

「フローラや、どうかしたのかい。あの子が気になるのかね」
「お父さま、リュカってとっても面白い子なのよ。もっとお話したかった…」
「そうかそうか」

父は私の手を握った。

「きっとまたいつか会える。サンタローズに家があるそうだから、期を見てまた手紙を書こう」
「はい、お父さま」

また会える、そう楽しみにして、彼と話したことを思い出しながら一人、部屋で椅子に座ってぼんやりと窓の外を見ていた。

「空の髪に、海の目…」

リュカが例えた私の見た目のことだ。
だけど、自分の色よりリュカの目の色のほうが素敵だと思う。
黒なのに黒じゃない、沢山の色と光が集まって黒に見えるような、そんなきらめきのある色。

「また会いたいな…」

空は雲ひとつなく、太陽の光で海もきらきらとしていた。
私の目の色、リュカと会える場所。そう考えたら海のことが少し好きになった…



「…なんてロマンチック!6歳児がそんな口説き文句言うなんて、お姉さん涙が出ちゃう!」

ポピーがハンカチを取り出して目元を押さえた。

(そんなに…泣くほどのことなのかしら)

「その子、いつ会えるかわからないんでしょ?」
「うん」
「フローラちゃんは会いたいんでしょ?」
「会えるなら会いたいけど…」
「よし、お姉さんに任せなさい」

どこからか袋を取り出したポピーは、伸びをしてから勢い良く飛び上がって近くにあった鏡に粉を振りかけた。
きらきらと輝く粉はゆっくりと鏡に吸い込まれていく。

「なにしたの?」
「お楽しみ♪いい夢みてねフローラちゃん」

ばいばいと手を振って去ったポピーだが、花びらを置き忘れていったようだった。
枕元に残された黄色い一枚の花びらが、妖精がそこにいたことの唯一の証拠になった。

「おやすみポピー…」

窓を閉めて、粉が降りかかった鏡の方を向いて、私は布団を被った。

妖精の鏡3

父は私をいつも通り部屋に連れて行った。
船に乗ったとき見える景色と違って、窓からしか見えない景色はどこか寂しいのだけれども、父も船乗りさんたちも私を心配してこの部屋に居て欲しいと思ってるのに出るわけにはいかなかった。
その時、コンコン、とドアを叩く音がした。

「こら坊主、中にはフローラお嬢さんが居るから入っちゃいかん」

船乗りの人が怒る声が聞こえて慌ててドアを開けた。そこには先ほどの紫のターバンの少年が立っていた。

「あ、さっきの…。この子はわたしの友達なの、だから入れていい?」

船乗りさんは私がお願いしたら大体どんなことでもいいよと言ってくれる、そうわかっていたからあえて言った。
私は悪い子かもしれない、けれどこの男の子と話をしたかった。

「お嬢さんがそう言うなら…」

見ないことにしてくれた船乗りさんにお礼を言って、男の子を部屋に入れた。

「リュカさん、よね?わたしはフローラ」
「フローラ…よろしくね」

男の子…リュカは少し驚いているようだった。大人の居るところで私が大人しかったからだろうか。

「ぼく、同じくらいの子に会うってあまりなくって。きみは7歳っていうから。ぼくの一つ上なんだね」
「でも本当は何才かわからないの」
「え?」
「ううん、なんでもない」

誕生日は、私が遺跡で拾われた日になっているし、何才かなんていうのも実はわからないことだった。
見た目からして何才だろうと、拾った人が決めたらしかった。

「リュカさんもお父さまと旅をしているのね」
「リュカでいいよ。うん、父さんは何か探してるみたい…」

そう言ってリュカは窓の外を見た。

「海ってすごいよね、こんな沢山の水、どうなってるんだろう」
「空だってどうなってるのかしら」

二人して窓の外の海と空を眺めた。

「海って、水のかたまりでしょ?水は透明なのになんで青いのかな」

リュカがぼんやりと呟いた。

「それは空の色を映してるんだってお父さまが言ってたわ」
「映してる?鏡みたいに?」
「うん」
「…ん、じゃあ空はなんで青いんだろう」
「ううーん…なんでかしら」
「フローラの髪ってお空みたい」

急に、外を見ていたリュカが私のほうを見た。

「目は海みたいな色だよね」
「そう?」
「うん、空と海みたい」

どう返していいのか分からなくて、熱い頬を押さえながらありがとうと答えた。

「リュカの目ってすごく不思議、ずっと見てたい気がするの」
「よく言われるんだけど、僕にはそんなように思えないんだよねぇ」
「鏡で見てみて!」

ぐいっと手を引いて鏡の前に連れてきた。

「うう、自分で自分の目を見るってなんかヘン…」

覗き込みすぎてよろよろと歩くリュカを見て思わず笑いが漏れた。
私は父から聞いた色んな話が出来たし、リュカはお父さんから聞いた話や今まで見た話が出来て、二人でご飯のことも忘れて語り合っていた。

妖精の鏡2

ビスタの港に行くのはこれで二回目だった。
一回目はよく覚えては居ないけれど私がまだ本当に小さい頃のことで、ぼんやりとした明かりしかなかった所を出て、いろんな人に出会って最後に父―――ルドマンに出会った頃のこと。
ルドマンの子になって手を繋がれながら見えた青いもの、それが初めて見た海で、その頃はまだ海が怖かった。
怖くて動かないでいたら父が抱き上げてくれて、大丈夫だよと言ってくれた。今回は―――

「ルドマン殿、本当にかたじけない」
「いやいや、気にする事はないぞパパス殿」

あれから二年が経って、サラボナからお客さまを乗せてビスタへいく事になった。
父は色んな所へ仕事で出かける時、私を連れて行ってくれる。
サラボナに居ると色んな人が私を椅子に座らせようとして、その目をかいくぐっては庭で遊んだりしたけれど、船に乗っているときや外に出かけている時は何を見るのも楽しいし、父に聞けば何でも教えてくれた。
だから私は旅をするのが好きだと思う。
ただ母はあまり船旅が好きでなくて、旅をするとき側にいるのはいつも父だけだった。

「おや、そちらのお嬢さんも船に乗せていかれるのですか?」

父が話していた相手は父とは違った大人の人だった。
髪は束ねているだけだけれど、きりっとした黒い眉に鋭い目をしていて、父のように商人という感じではなかった。
それもそのはずで、その人の体には沢山の傷が見えて、持っている剣はずいぶん汚れていた。
私もいままで色んな旅人さんを見てきたけれど、この人ほど何か感じさせる雰囲気を持った人はいなかった。

「ええ。娘には幼いうちに出来るだけ外の世界を見させてやりたいのです」
「ふむ…年はおいくつで?」
「7つになったばかりで」
「7つですか、ではうちの倅よりも一つ上ですね。息子は6歳なので」

旅人さんの後ろに立っていた少年が顔を出した。その顔をみた瞬間、黒い目にぐっと引き込まれる気がした。

(不思議な目…)

紫のターバンを巻いて簡単な旅の支度をしているが、親と違って慣れていないのか腕も足も傷がない。
子供だからというのもあるのだろうけれど、背に背負っているのは剣ではなくて、持ち手に布が巻かれた木の棒だった。

「おお、パパス殿によく似た子ですな。お名前は?」
「リュカ」
「そうかそうか、リュカくんは利発そうじゃな」
「恐れ入ります」

話し込んでいると、船の方から声がかかった。

「おお、そろそろ時間のようだ。パパス殿、乗りなされ」
「ではありがたく」

私の方を見た旅人さんが、手を伸ばした。

「お嬢さんはまだ背が小さくて一人で乗れないでしょう、わたくしめが乗せて差し上げましょう」

と、笑顔で私を持ち上げて船に乗せてくれた。
けれど、その動きと言葉がどこかの貴族のようで驚いてしまった。
どう見ても貴族とは思えない格好で、商人の父の方が貴族に近い服を着ていたものだから。
父とは違うがっしりした手は、私を降ろすと、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。

「ありがとう」

自然とお礼が口に出た。

「どういたしまして」

見上げると、旅人さんがとても大きく感じられた。
微笑んだ旅人さんは次に男の子を船に乗せ、最後に自分が乗った。
その後父が乗って出発の合図をすると、船はゆっくりと動き出した。

妖精の鏡1

長かった冬が終わりを告げて春が来ると家の庭に花が沢山咲き、鳥や蝶が集まってきていた。
サラボナの人々も春が来ると商売だ商売だと言って賑やかになって、広場には人が集まったりしていた。
ある晩、満月で月明かりが綺麗な夜のことだった。
ふと外を見てみると、蝶のようだけどきらきらと光るものが花畑の上を飛んでいた。
なんだろうと思ってそっと音を立てないように階段を降り、庭に出てみた。

「あっ」

近づくとそれが蝶でないことがわかる。
半透明な羽をぱたぱたと羽ばたかせて飛んでいるのは小さい女の子…あれが妖精というものなんだろうか。
花びらをちょんと引っ張って花から引き抜くと、小さな頭に乗せて楽しそうにくるくると回っていた。

「あら、あなた…あたしがわかるの?」
「!」

なにか言いかけると、人差し指を唇に当てて妖精が近づいてきた。

「ちょいちょい、あなたの部屋行くわよ!」

オレンジ色の長い髪にはゆるやかにウェーブがかかっていて、白いワンピースを着ている。
小さな妖精はポピーと名乗って、私の枕に座った。

「やっぱり妖精さん?」
「そう、あたしは妖精よ。ただの妖精じゃない、恋専門の妖精なの」
「恋…?」

ふふ、と笑うポピーは小さいのに、雰囲気が宿屋の前でお客さんを呼び込んでいる大人のお姉さんに似ていた。

「そう、女の子や男の子をときめかせる恋のお手伝いをするのよ」

サラボナの広場の噴水には女神像が飾ってあるのだけれども、その前で好きな子に告白するとうまくいくといううわさは聞いた事があった。
だけどそれ位で、他に恋らしい恋の話を聞いたこともなかったし、私にとって恋というのは大人の世界の話だった。

「どんなお手伝いをしてるの…?」
「妖精の姿は大人には見えないから、いい雰囲気の二人を事故に見せかけて衝突させたりとか!」
「ええっそれでいいの?」
「あらっ、フローラちゃんは好きな人はいないの?」
「好きな人って…」
「んー!じゃあ身近な男の子!」

ふと頭に浮かんだのはアンディだったけれども、アンディとぶつかっても特に何も…と思った。

「ぜんぜんわからない」
「も~、どきっとしたことないの、7歳なのにっ」

ドキっとしたことならあった。昔、一緒に船に乗った子が…

「どきっとすることが恋なの?」
「そう、気になる、好きってことよっ」
「ああ…そうなんだ…!」

―――フローラの髪ってお空みたい。目は海みたいな色だよね。

言われた事を思い出して顔が赤くなってきた。
私はあの子が好きなんだ、そう思った瞬間、ポピーの興味津々な声が飛んできた。

「あらあらっ、フローラちゃんの初恋ってどんな人?おね~さんにもお話聞かせてよ!」
「え、えっと…」

そう、あれは数ヶ月前のこと…

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